グリップはバイクを操作する上で直接身体と接する、とても重要なパーツです。今回はそんなグリップが消耗してしまった場合の交換方法を細かく習いつつ、グリップの種類や、そのメリット・デメリットなども解説してもらいました。講師はいつも通り、BIVOUAC所沢・ストラーダの渡辺健さん
グリップを交換しなければならないほど使い込んだ経験がある人って、実は少ないのではないでしょうか? グリップが損耗してくると、だんだん表面のツブツブやワッフルなどが削れて、握った手が滑るようになってきます。そうするとグリップを握る手に余計に力が入ってしまって腕上がりしやすくなったり、手のひらにマメができたりというトラブルが生じます。
埼玉県のバイクショップ、BIVOUAC所沢・ストラーダの渡辺健さんは「手はバイクを操作する上で一番大事なインターフェースです。だからこそみんなもっとグリップに対するこだわりを持って欲しいと常々思っているんです。グリップは損耗する前に定期的に交換してあげてください。今回はグリップの交換方法をレクチャーするとともに、どんなグリップがどんな乗り方に向いているかもお話ししていきたいと思います」と言います。それではさっそく渡辺さんにグリップ交換のやり方を教えてもらいましょう。
古いグリップを再利用可能なまま外す裏技
今回交換するのはこちらのグリップ。まずはクラッチ側を例に解説してもらいます。
一般的にグリップを外すときはカッターなどで切って、外したら廃棄してしまうことが多いと思います。しかしエアーコンプレッサーの力を借りれば、グリップを切らなくても外すことができ、再利用も可能なのだと渡辺さんは言います。
ワイヤリングしてある場合はワイヤーをニッパーで切っていきます。
ワイヤーを全部切ってバーエンドを外したら、エアーコンプレッサーを使って、グリップの付け根に空気を高圧で吹き込んであげると、簡単にグリップを外すことができます。
この通り! 驚くほど簡単にグリップが抜けていきます。この方法ならグリップを切らずに外すことができるので、ハンドルバーだけ交換してグリップを再利用したい時などに便利ですね。
しかし、自宅やガレージにエアーコンプレッサーを持っていない人がほとんどだと思います。その場合は仕方ないのでカッターでグリップをカットして剥がしていきましょう。
グリップが完全に外れたら、ハンドルバーに残っている古いボンドを綺麗に落としていきます。パーツクリーナーをたっぷり吹き付けてウエスでゴシゴシ。
この通り、古いボンドを綺麗に拭き取ることができました。
新しいグリップを装着するときは
パーツクリーナーを潤滑剤として使う
新しいグリップを挿入するときも、外す時と同じようにエアーを吹き込みながら差し込んでいけば、簡単に入れることができます。ではエアーコンプレッサーがない人はどうするかと言うと、パーツクリーナーを使います。
まずはグリップボンドをバーに塗ります。
RENTHAL
グリップグルー
¥1,430(税込)
今回はこちらのグリップグルーを使いました。アルミとゴムを接着するため、グリップ専用ボンドを使用してください。グリップボンドは乾いたら接着剤として効果を発揮するのですが、グリップを挿入する際には潤滑剤として機能します。そのため惜しまずにたっぷりと塗るようにしましょう。
SCOTT
デュースグリップ
¥3,300(税込)
今回新しく装着するグリップはこちら。スコットのモトクロス用デュースグリップです。手のひらが当たる部分に柔らかい素材をを採用しているデュアルコンパウンドタイプで、振動による疲労を軽減してくれます。よくあるハーフワッフル形状ですがワッフルがグリップを握った時の指の形に沿って斜めに成形されている点もポイント。グリップドーナツも付属していますので、親指が擦れて痛くなってしまうのも予防できます。
新品グリップを簡単に挿入するのに一番大事なポイントがここ。グリップを挿入する前に、穴の中にパーツクリーナーをたっぷり吹き付けてあげましょう。これをしないと潤滑が足りずにグリップが途中までしか刺さらず、それ以上入らないし、抜けないという悲惨な状況になってしまう可能性があります。パーツクリーナーは少し時間が経てばグリップ内部で揮発してくれるので、拭き取る必要もありません。
グリップボンドとパーツクリーナーが乾いてしまう前に一気に差し込みます。この時、グリップを回しながら入れると奥まで入りやすいのですが、奥まで入った時のグリップの向きに注意。
デュースグリップはこのようにバーエンドのところに方向が示されています。この矢印が前を向くように入れ込みましょう。
するとこの通り、握った時に指が引っ掛かるようにワッフルの位置が正しく決まります。
「すごく理にかなった形状をしていますね。全体的に少し太めですので、アクセルを回す力が少なくて済みます。リブやブロックがあまり深くないので、耐久性はそんなに高くないかもしれませんが、モトクロスのような短時間のレースには向いていると思います。親指側のゴムが厚くなっているから衝撃の吸収性も高そうですね。グリップはライダーの好みやグローブとの相性もあるため、一言で『このグリップが良い』とは言いづらいのです。最終的には使ってみないとわからないというのが正直なところなのですが、モトクロス用ということであれば、一つの正解の形だと思います。例えば、ツーリングだともっとゴムの硬いもので耐久性を上げたり、ラリーならグリップをもっと太くして疲れづらくしたりする。また、トライアルだと耐久性を犠牲にしてグリップを細くすることで路面の情報が伝わりやすくしているなど、使用用途ごとにある程度のセオリーはできてきていますよね」と渡辺さん。
アクセル側も基本的には同じです。スロットルワイヤーを外してスロットルチューブを自由にし、古いグリップを外します。
こちらもボンドを塗りたくります。
そしてやはりパーツクリーナーを吹き付けて差し込みます。
アクセル側も装着完了です。
でもここで終わりではありません。グリップボンドだけだと、力を入れて握った時にグリップが回ってしまうことがありますので、ワイヤリングを施していきます。
ワイヤリングにはワイヤーツイスターが必須!
引っ張りながらツイストしよう
UNIT
セーフティワイヤー
¥1,100(税込)
長さ:100m
太さ:0.6mm
今回、ワイヤリングに使うワイヤーはこちら。UNITのセーフティワイヤーはグリップだけでなく、ドレンボルトの滑落防止など様々なワイヤリングに使えます。なお、グリップのワイヤリングに使うワイヤーはなんでも良いというわけではありません。渡辺さんは「ワイヤーの素材はステンレスで錆びないものを使いましょう。太さは0.6mmくらいがちょうど良く、これより細すぎるとグリップに食い込んでグリップが切れてしまうし、太すぎると巻きにくい。例えばワカサギを釣るのにイシダイ釣る糸は使いませんよね。それと同じです」と、趣味の釣りに例えてくれました。
ワイヤリングをするにはワイヤーツイスターが必要です。これは渡辺さんが30年以上愛用しているワイヤーツイスター。「ワイヤリングはワイヤーツイスターがないとできません。もしツイスターを持っていないのであれば、やらない方がマシですよ」と渡辺さん。
まずはワイヤーを30cmくらいにカットします。短すぎるとツイストしにくいし、長すぎると作業中に余ったワイヤーで手を傷つけたりしてしまうことがあるので注意しましょう。
このデュースグリップにはワイヤリングする所に段差が作られているので、そこに沿わせて全部で3本ワイヤリングをしていきます。最初は手で巻いていきましょう。
このようにワイヤーを二重で巻いたところでワイヤーツイスターの出番です。
写真のような感じでワイヤーを挟んで使います。
ここで渡辺さん的注意点。「ワイヤーツイスターはぐるぐるワイヤーを回して締めこむ道具なのですが、このステンレスのワイヤーはぐるぐる回転するだけで締まるようにはできていません。まずワイヤーをぐっと下に引っ張ってグリップに食い込ませ、そのテンションを保ちつつツイストして締め込んでいってください。下に引っ張りながらツイストすることがとても大事です。ぐっと引っ張ったら、クルとツイスト。慣れてくると手の感触でワイヤーがきちんと締め込まれているかがわかるようになってきますよ」(渡辺)
できました!
1〜2箇所ワイヤリングしたら余分なワイヤーをカットします。でないとまた余ったワイヤーが手に刺さって怪我の原因になります。
カットする目安はこのあたり。これよりもギリギリで切ってしまうとせっかくツイストしたワイヤーが解けてしまいます。
最後は余ったワイヤーをグッとグリップの中に押し込んで終了です。
こんな感じ。押し込む方向はグリップの外側派と内側派がいるのですが、渡辺さんは内側派。理由は、と尋ねると「正直どちらでも良いのですが、僕は内側に潰しています。転倒した時にはグリップの外側から押されるので、内側に向かって力がかかります。その時にワイヤーの先端が外側を向いていたら、それが手に刺さる可能性がありますよね」とのこと。こんな細かいところまで考えて作業しているんですね。
3箇所のワイヤリングが終わったらデュースグリップに付属するグリップドーナツをハメて交換終了です!
いかがでしたでしょうか?
グリップ交換は簡単そうに思えますが、手順を知らずに行うとなかなか苦戦してしまうことがあります。パーツクリーナーなどの便利アイテムをしっかり使って、楽に交換できる方法を覚えておきましょう。