今回は、ダートフリークの新しいアウトドアブランド「MIGRATRAIL(ミグラトレイル)」。開発担当の一人である、ダートフリーク開発グループの石原さんに話を聞いてみた。キャラバンとハイエースの荷室をベッドに変えるバンアクティビティシリーズにDeep Diveして、商品の魅力と秘密に迫る。
レース観戦のため全国を飛び回り、開発現場を足元から支える
普段はサスペンション周りがメインです。それからライダーサポート関係も担当しているので、モトクロスのレースは毎年ほぼ全戦観に行ってます。それから全てではないですが、トライアルとエンデューロ、モタードも。自社の製品に不具合が出たりしていないか、最前線で確認しています。
毎年沢山のレースを見に行く石原さん。そんな彼が開発したのが、ダートフリークが2022年秋にリリースした新しいアウトドアブランド、MIGRATRAILから発売されている「バンアクティビティーシリーズ」である。
バンアクティビティーシリーズ:ハイエース
バンアクティビティーシリーズ:キャラバン
外遊びってことで言うと、もちろんモトクロスはやります。サーフィンにスノーボード、たまにキャンプですかね。モトクロスは同僚とか友達と、海は1人で、キャンプは家族と楽しんでいます。
モトクロスをやっているので、昔からワンボックスに乗っていて、車の中で寝られるようなベッドがあったらいいなと、ずっと思っていたんです。 でも、既存の車内にベッドを設置する商品には、個人的に求めるものとズレがあって、不満があったんです。主に収納面と使い勝手、それから価格ですね。業者さんに取付けてもらうものは立派になるんですが値段が高いので、みんな自分でDIYするんです。ベッドと呼べるか不明だけど、単純にパイプで脚を作って板を載せるだけの人もいます。DIYが好きな人だったら、自分でそれっぽいのは作っちゃうと思いますよ。 以前ハイエースに乗っていたときは、自作のサイドボックスみたいな箱を作って載せてましたね。 フロアパネルも、市販のものを買って載せていました。でも、収納スペースがあって展開も収納も簡単にできるものは、なかなか自分じゃ作れないなと思ったんです。
始める前も始めてからも困難ばかりでした。何しろ、我々はバイクの部品を作るメーカーなんです。なので車のものを作ろうとしたときに、何もかもが違いすぎて。 バイクのパーツっていうのは、機械的要素が強い。それに対して、こちらは家具的要素が強いじゃないですか。木の板の加工についてもよく分かってなかったし、そういう部分から勉強しました。それから、そもそも社内に寸法を取れる車がないので、知り合いから車を借りてきたりとかして。あとは、とにかく研究しましたね。たくさんキャンピングカーショーとか、アウトドアショーを見に行って、他社さんの商品もたくさん見ましたし、 実際にキャンピングカー屋さんのキャンピングカーを見て作りを勉強しました。
バイクの部品はほとんどが手のひらサイズで、基本的にはコンマ何ミリまで測って設計するんです。車の場合、大きいことと、壁が平面でなくて曲面なので、形状を測定するのがとても大変でした。そこは最新の3Dスキャナを導入して、精度を保てるようにしました。それから、材料が木の板じゃないですか。木って板になっても生き物なんですよ。反ったり割れたりして、最初は失敗ばっかりでした。材料の選定のために試作を何度も作って、思ったものが作れるような材料を求めて結構苦労しました。新たに、木材をコンピューター制御で切れる大型機械を導入して、図面に合わせてバチっと切れるようになったんです。初期投資は結構必要でしたが、やはり木は軽いし加工しやすいし使いやすい。フロアパネルもサイドボックスもベッドの中も木だし、柔軟性がある木をふんだんに使いたかったんです。
段差をなくして快適を追求したフロアパネル
フロアパネルの1番のこだわりは、表面を段差のない1枚で仕上げた点です。なぜそうしたかというと、例えばバイクを積んだ後、落ちたゴミや土を掃除したいですよね。その時に継ぎ目があると、そこに埃とか土とか水が入ってしまって、取れなくなるのがすごく嫌だったんです。掃除の時だけじゃなく、途中に段差があると、 例えば重たい長いものを後ろから積む時に、滑らせても引っかかって途中で止まってしまうんです。そういうのもストレスなく積めるように、段差のない1枚で仕上げました。加えて、ゴミを車外にほうきで掃き出す時に、フチでゴミが引っかからないように工夫しました。スライドドアを開けたところから掃き出せるようにしてあるんですけど、最後にフチが出っ張っていると、そこにゴミがちょこっと残って気持ち悪いんですよ。この部分はエッジを出して、ゴミが残らないようにしてあります。
あと、フロアのカーペットを剥がさずに、純正状態の車の上に載せる設計にしてあります。カーペットを剥がして、きっちりピッタリ置くタイプの商品もあるんですが、そういうタイプは鉄板に穴をあけて、ビスを打ったりしないといけない事があります。カーペットなどの内装を剥がすということは、本来ある車の防音性や保温性を奪うことになるんです。なのであえて、カーペットの上に載せられるようにしています。ただ、床が柔らかいので踏んだら若干沈んでしまうっていうデメリットはあります。でもそれよりも車が本来持つ快適性を損ないたくなかったんです。カーペットの上からでも、しっかり固定される設計なので、基本的にずれたりガタついたりすることはないです。車両の形状に合わせてきっちり成形されているのに加えて、しっかりボルトで固定するので心配ないです。もともと車両にあるネジ穴を使うので、車両に穴をあけたりしなくてもいいんです。
収納をプラスしてストレスを減らすサイドボックス
サイドボックスみたいな商品って、あんまり既存の商品にないんですよ。こういう商品の利便性は、実は乗用車に乗っているとあまり気づかないんです。傘1本を積みっぱなしにしておきたいとき、乗用車だったら、トランクの中に入れておくとか出来ますよね。ワンボックスだと、荷室に物を置いていると、移動の度にザザーって端から端まで動いちゃうんですよ。そういう物を気軽に収納できる場所が欲しかったんです。ある程度長いものも入るような形状にしてあって、バイクを載せた時に当たらないように、後ろ側を斜めにカットしてあります。斜めのカットは他にはないポイントですね。
ベッドは必要ないけど、収納だけ欲しいっていう人は、サイドボックスだけ付けてもらうこともできます。もう1点このサイドボックスにはポイントがあって、車中泊をする時に最近よく使われるポータブルバッテリーがスッキリ入るスペースがあるんです。ポータブルバッテリーって充電が必要なので、すぐ持ち出しができるように、中にしまってしまうのではなく、洞穴みたいなスペースにさっと入れて取り出せるようにしてあります。
最初に作った時は、この形ではありませんでした。長いボックスは、強度を保つためにどこかに間仕切りをつけないといけなくて、最初は3部屋だったんです。そうすると、一番前側の部屋はそこまで便利に使えそうになかった。そのころキャンプブームが来て、ポータブルバッテリーが使われるようになってきて、ここにバッテリーをスッキリ入れられるようにしようと考えました。サイドボックスもフロアパネルと同様に、車両にある既存のネジ穴を使ってつけるボルトオンです。
収納を脚として使う、フリップベッド
フリップベッドに関しては、既存の商品を付けた時にできるデッドスペースがすごく嫌だったんです。よくあるのが、車両にフレームを固定して跳ね上げ式にしてあるベッド。これは一見省スペースに見えますが、タイヤハウスの前後とか、フレームが邪魔で荷物を置けなくなるんですよ。
MIGRATRAILのベッドは基本的にボックスが収納スペースになっているので、デッドスペースが出来ません。確かに、フリップベッドを付けようと思うと、サイドボックスを買わなきゃいけないというデメリットはあるんですが、ボックスを付けることで、収納スペースが生まれる。サイドボックスとフリップベッドを揃えても、ベッドだけで売っている商品と比べてそんなに値段が高いわけじゃない。MIGRATRAILだと、収納スペースもできて一石二鳥だと思いませんか?それから、ベッドのスポンジは、あえて分厚くないものにしました。スポンジが分厚いと、どうしてもちぎりパンみたいになっちゃって、見た目があまりよくないし、収納した際スペースが無駄になるんですよ。スペースを最大限に使えるけれど、可能な限り快適に寝られる厚みにしました。だから、寝心地最優先で作られた製品と比べると、そこは劣るかもしれない。 だからって、背中が痛くて寝られないってことはありません。必要最低限の厚みに、あえてしたんです。実は厚みがあると体が沈み込んで、寝返りするのも、ベッドの上を移動するのも、ちょっとしんどい。起き上がる時にも分厚いと体にはストレスなんです。その辺がこだわりですね。
はい、車中泊はしていますよ。例えば、サーフィンするときは、波が一番いい朝一で海に入りたいんですよ。夏なんて朝5時から入るためには、海から遠い所に住んでいるので夜の2時頃に家を出なきゃいけない。それは辛いから、前日の夜に移動して、現地で車の中で寝て、日の出とともに海に入る、みたいなことをするんです。以前ハイエースに乗っていた時は、セカンドシートを全部倒して寝ていて、当時はそれでも十分休めていると思っていたんです。でもこのベッドを開発して付けて寝てみたら、びっくりするくらい熟睡できたんです。こんなに違うのかっていうくらい休めました。平らであることって大事です。 完全にフラットじゃないと、体は完全には休まらないんだと思います。
使わないときにはその存在を忘れるフルフラットベッド
ベッドの厚みはフリップベッドともちろん一緒です。ベッドの足になるパイプがやっぱり邪魔で、ベッドを使わない時にはフレームの存在感が気になるんです。もちろんこれもデッドスペースを作ってしまうし、バイクを積むときも邪魔で、圧迫感があるんです。これが嫌で、ちゃんと車の内側の壁に沿った形状になってるんです。ここはすごいこだわりです。
あとは、3枚のベッドの板を使わない時は、折りたたんだフリップベッドの裏側に隠せるんです。しまってしまえば、その存在を忘れることができる。ここはかなりのこだわりポイントで、フリップベッドの裏側に隠して、右側は何もない状態になるから、スマートですよね。
それから、3枚の板だからできることもあります。例えば、両側ともフリップベッドだったら、その下に置いてある荷物を取りたいと思った時に、ベッドを上げなきゃいけないじゃないですか。でも、この商品なら1枚めくれば、荷物にアクセスできるんですよ。1枚のタイプとか、2分割のタイプにもできたんですけど、3分割することによって、下側の荷物へのアクセスをより容易にすることができました。そして、板は1枚だけで使うこともできるし、2枚だけで使うこともできるし、真ん中抜いて掘りごたつみたいな形にもできる。他の便利な使い方としては、ベッドは使っておきたいけど、背の高い荷物をどうしても載せたいって時は、1枚だけめくっておけば、そこにスポンって入るとかですかね。板の組み合わせ次第でいろんなことができるんですよ。
フルフラットベッド:ハイエース
フルフラットベッド:キャラバン
アウトドアの手前の延長線上、遊びは準備の段階から始まる
この商品はシステム化しているので、 ボックスを付けて、次にフリップベッドを付けて、最後にフルフラットベッドを付けてっていう段階を踏めるんですよ。既存の商品だと、片方のフリップベッドを買った人が、後になってやっぱり反対側にもベッドが欲しくなった時に、片方だけで買えないパターンが多いんです。でもMIGRATRAILは、まずサイドボックスとフリップベッドを買った人が、次のボーナスでフルフラットにしよう、とかできるわけです。買い足せるっていうのがポイントですね。組立てに関しても、ホームセンターに売っている棚に近いイメージで組み立ててもらえます。簡単なDIYキットのようなものなので、基本的に説明書通りにやれば手軽に作れます。部品は付くとこにしか付かないように設計してあるので、失敗もない。作る楽しさも含めて、DIYをエンジョイしてもらえたらなって思っています。自分で作った方が愛着も湧くし、長く使ってほしいですね。自分で作っていれば、仕組みが分かってますから、さらに自分流に手を加えることもできます。業者さんに最初から全部取り付けてもらうと、どこがどうなってるか分からないですよね。もちろんそういうのがいいっていう人もいるから、それは否定はしません。商品のコンセプトとして、アウトドアの手前の延長線上にあるDIYってことで、それも踏まえて楽しんで欲しい。家族とワイワイ言いながら一緒にやってくれたらいいなと思います。
色んなシチュエーションで使えるので、自分と同じようにサーフィンであったり、スノーボードであったり、キャンプであったり、車中泊はもちろん、中でしっかりくつろいで欲しいですね。それから、単純に移動の足として使っていても、荷室に段が一段あることで、荷物が倍積めるんですよ。棚としても使える。家族が多いと、遠方に帰省する時とか大量の荷物になりますよね。そういう時に、床に置きたくないものってあるじゃないですか。例えば、布団を持っていかなきゃいけないとか、さっと羽織りたい上着とか。そういうものはベッドの上に乗せとておいて、下には重ねてもいいようなものを置いて。荷物がたくさん積めるようになりますよ。あとは何より子供が喜ぶんですよ。後ろが秘密基地になりますから。アウトドアをする人に限らず、どんな人にもおススメです。
もう本当に、快適の一言。寝転がって快適なだけじゃなくって、設置するのも楽なんですよ。例えば、使うたびにベッドに足を4本取付けてセットするタイプのものだと、設置するまでが大変ですよね。設置して寝っ転がったら、その時は快適だろうけど、準備するのも片づけるのも大変で疲れますよね。MIGRATRAILはリラックスするまでの準備も快適で、片づけるのも楽です。
実はハイエースとキャラバンはまだまだ終わりません。例えば、荷室の窓ガラスを、防音・保温の為に塞ぐパネルを開発中です。あとはカーテンのような仕切りであったり、その他もいろいろ検討中ですよ。
今はまだ知名度が低いので、少しずつ周知してもらって、今後もワクワクできるものをたくさん作っていきたいですね。
根底に流れる共通の人生哲学
「外遊びを楽しむ為の元気」を蓄えるバンアクティビティーシリーズ。「遊び」を楽しむことを突き詰め、ハイエースとキャラバンを、自分の手で秘密基地に仕立て上げる商品を作った開発者は、どこまでも真面目に「遊びを心から楽しむ方法」を具体化している。オフロードバイクのパーツの開発と、ワンボックスを快適空間に変えるバンアクティビティーシリーズの開発、その両方の根底には、「真剣に遊ぶ」というある種の人生哲学が、深く広く流れているように思えた。
ダートバイクプラス瀬戸店で、商品を搭載した車両をご覧いただけます。店内にも商品を展示しています。詳しくは店舗スタッフにお尋ねください。