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FOX オフロードブーツにおける価格、プロテクション、操作性の関係

初めてオフロードブーツを購入する時は、いきなりお店に行ってもどのブーツを購入すれば良いのか判断が難しいと思います。そこで一つの指標とするべく、FOXのコンプ、モーション、インスティンクトの3つを比較インプレッションし、どのブーツがどんなライダーにオススメか解説していこうと思います。

FOX
コンプXブーツ
¥51,700(税込)
カラー : ダークカーキ
サイズ : 8(25.2cm)・9(26.0cm)・10(26.8cm)・11(27.8cm)・12(28.6cm)・13(29.4cm)
実測重量:3,290g/サイズ10

FOX
モーションブーツ
¥77,000(税込)
カラー : ダークシャドウ
サイズ : 5(22.5cm)・6(23.5cm)・7(24.4cm)・8(25.2cm)・9(26.0cm)・10(26.8cm)・11(27.8cm)・12(28.6cm)・13(29.4cm)※5・6・7・13はブラック、ホワイトのみ
実測重量:3,730g/サイズ10

FOX
インスティンクトブーツ
¥98,450(税込)
カラー : マウイブルー
サイズ : 8(25.2cm)・9(26.0cm)・9.5(26.5cm)・10(26.8cm)・10.5(27.3cm)・11(27.8cm)・12(28.6cm)・13(29.4cm)
実測重量:4,030g/サイズ10

今回解説していくのはこちらの3種類。パッと見はどれも脛までカバーしていてプロテクションに優れていそうだし、性能にさほど大きな違いはないのではないか? と思えますね。しかし実際に履いてみると少しずつ違いが見えてきます。

足首の可動域とプロテクション性能

オフロードブーツを選ぶ上で最も大事なことはプロテクション性能と足首の可動域です。一般的にこの2つはトレードオフの関係にあり、残念ながらどちらも最高というモデルは存在しません。つまり、プロテクション性能が高いブーツは足首が動きにくく、足首が動きやすいものはプロテクション性能をある程度犠牲にしているのです。

まずこちら、最高級モデルのインスティンクトにはヒンジロックシステムが搭載されています。これは足首の伸び方向への過度な動きを制限することでアキレス腱などの靭帯を保護してくれるシステムです。また、横方向へのねじれの動きも制限してくれるため、捻挫や脱臼も予防できます。しかし当然ながら、足首の可動範囲を制限してますので、シフトチェンジやブレーキ操作などをスムーズに行うには慣れが必要です。

次にミドルクラスのモーション。こちらにもヒンジがついていますね。しかしインスティンクトに比べるとヒンジが小さく、縦方向に対する動きの制限はあまり強くありません。そのため、インスティンクトに比べるとシフトチェンジやブレーキ操作はしやすいですが、アキレス腱など靭帯の保護は少し心許ない印象です。ただし横方向へのねじれの動きは制限してくれるため、捻挫や脱臼は予防してくれます。

そして最後はコンプ。こちらはヒンジがついておらず、プロテクションには少し不安がありますが、足首の可動域は広く、シフトチェンジやブレーキ操作はとてもやりやすくなっています。

では、プロテクションに優れるインスティンクトが一番安全で、コンプが一番危険、モーションが中間かというと、そう簡単には結論付けられません。実際に使用する環境によって、求められる性能はそれぞれ違うからです。インスティンクトとモーションはかなり特性が近く、一般的にはモトクロスやクロスカントリーのようなハイスピードなレースでも十分実用に耐えられます。しかしコンプは少し違うキャラクターで、林道ツーリングやファンライドにオススメと言えるでしょう。

ただし、トップライダーの中にはモトクロスやクロスカントリーでコンプを選択するライダーもいます。例えば下り坂でブレーキをかけたいときにインスティンクトを履いていたらうまくブレーキ操作ができない人でも、コンプだったらしっかりブレーキの強弱がつけられて、安全に降りられるかも知れません。可動域が広く、操作がしやすいことが安全につながる「アクティブセーフティ」という考え方もできるのです。

また、ライディングスタイルによってもブーツの選び方は変わってきます。

例えばJNCCチャンピオンの馬場大貴選手は「僕はつま先でステップを踏んで乗るので、モーションだとギャップを超える時などに少しブーツが柔らかすぎて足首が動きすぎ、痛くなってしまうため、インスティンクトを選んでいます。確かにブレーキ操作は少ししづらいのですが、足を踏みかえてブーツの重さでブレーキをかけています。新品の状態ですと革が硬く、かなり動きづらく感じてしまいますが、履いているうちに足に馴染んできて操作しやすくなっていきますよ」とのこと。

さらに埼玉県のオフロードヴィレッジ本コースにて編集部・稲垣が3つのブーツを履き比べてインプレッション。

稲垣
「新ラインナップ3足のプロテクション性能は、フィーリングで判断するとインスティンクト10、モーション9、コンプ5くらいの評価です。つまりインスティンクトとモーションはかなり近似しているなと感じました。インスティンクトのほうが剛性感が強くて、その分足首の自由度が少ないな、と感じます。ある程度、レザー部分を慣らして柔らかくする必要があるのかもしれません。ただし、プロテクション性能を感じることもあって、インスティンクトとモーションの2足は比較的攻めの姿勢をとることができるように思います。コンプはこの2足から少し離れた位置にいて、だいぶ柔らかめに感じました。価格帯やスピード域から言ってもコンプブーツは操作性を重視したモデルだと言えるでしょう」

 

マシンをホールドするグリップ力に違いアリ

次に注目したいのはグリップ力です。初心者の頃はあまり意識していないかも知れませんが、オフロードブーツの内側、つまりマシンをホールドする側の側面は柔らかいコンパウンドに凸凹状の加工が施されており、まるでソールのような状態になっています。これは加減速の際に足の内側でマシンを強力にホールドすることで体が遅れないようにする「くるぶしグリップ」を補佐する役目を持っているのです。

今年発売されたFOXの新ブーツはこのグリップ力とその耐久性を大きくアピールしています。

見た目にはどのブーツにもグリップしそうな加工が施されているのですが、実際に触ってみると、その素材はパートによって大きく異なっています。上の写真で赤く塗りつぶしたところはゴム素材で構成されていて明らかにグリップ力が高く、そのほかの部分はプラスティックのようなツルツルした手触りでした。つまりインスティンクトは3つの面、モーションは1つ、コンプは0となっています。

インスティンクトはFOXが独自開発したULTRATAC™ヒートガードを採用しており、グリップ力と耐久性を高い次元で両立しています。

稲垣
「実際に履いてみると確かにこのグリップ力の強弱は感じられるものでした。インスティンクトの場合、特にふくらはぎからくるぶしあたりのグリップ力が比較的強く、しっかりマシンを挟み込むことが出来ますね。ちょっとしたジャンプでマシンを足で引き上げるような動作もしやすいですし、上級者にとってはこのグリップ力でマシンを寝かせたりもしやすいのでしょう。ですが、例えばリアブレーキを踏む際にその強弱を足首だけでなく、フレームにこすりながら足全体で調整するライダーの場合、こういう動作は少しやりづらいかもしれません」

モーションにはやはりFOX独自開発のDURATAC™ヒートガードを採用し、高いグリップ力を実現しています。

そしてコンプはPOSITAC™ヒートガード。こちらはグリップ力というよりも耐久力重視という印象です。

稲垣
モーションの場合はちょうどいいグリップ力だと感じました。コンプに関してはプラスチックが車体に接地しているような感覚でグリップ力はほぼゼロに感じ、少し滑りすぎる感じもあります。ただグリップ力があれば必ずしもライディングに好影響かというと、そうではないのではないか、とも感じました。特にビギナーにはしっかりくるぶしグリップができる人はあまりいないので、むしろ足を出しやすいコンプブーツのほうが操作感が優れていると感じるかも知れません

また、ソールのグリップ力もブーツによって変わってきます。写真では左からインスティンクト、モーション、コンプXの順です。実は今回テストした3つのうちコンプだけはコンプX、つまりエンデューロソールを装着しているモデルをお借りしました。モトクロスのレース中は基本的にソールはステップの上に乗っているため土や岩の路面に対するグリップ力は必要なく、耐久性を重視するソール形状とコンパウンドになりますが、エンデューロや林道ツーリングではそうとも限りません。バイクを降りて坂道を登ったり、滑りやすい岩場を歩いたりするシーンも出てきます。そういう使い方をするライダーには各モデルにラインナップされているエンデューロソールを装備したXモデルをオススメします。

なおFOXのブーツは、ソールがすり減ってきた場合に、レーシングブーツ専門の販売修理店 MTXRにてソールを交換することが可能になっています。

0.5インチ刻みのサイズラインナップが嬉しい

インスティンクト、モーションの2モデルはバックルに金属を採用。しっかりと足を固定してくれるため、容易に高いフィット感を得ることができます。

対してコンプのバックルは樹脂製。コストパフォーマンスに優れますが、高いフィット感を得るためにはバンドの長さ調節などをかなりしっかり行う必要があります。

稲垣
「最もフィット感に優れると感じたブーツはモーションでした。インスティンクトの場合プロテクション部分が多いためか、面で包まれるというよりいくつかの線や点で足を保持しているようなフィーリングです。インスティンクト、モーションの2足はバックルが金属製であることもあり、カッチリ締まる感触があるのもいいところです。コンプはバックルが樹脂であることからしっかり締めるためにサイズ感を調節することが難しく、フィット感を出すためには少しコツが必要だと感じました。逆に言えばコンプでもセッティングさえしっかり出てしまえば同等のフィット感があります。またインスティンクト、モーションはサイズ小さめ、コンプは大きめに感じ、各人でジャストなサイズが違うと思います。インチで1サイズくらいの差がありますね、旧型もこれは同じでした。FOXの新ラインナップは0.5インチ刻みでサイズが用意されていることがメリットで、その恩恵はかなり大きいでしょう。個人的にも旧型はインスティンクトはハーフサイズ上が欲しかったし、コンプはハーフサイズ下が欲しいと感じていましたが、この新型ではちゃんとサイズがぴったりだと感じるブーツを探すことができます

結局どれを買えばいいの?

ここまで様々な側面から考察してきましたが、インスティンクトとモーションはかなり似ているキャラクターで、コンプだけが少し離れていると感じました。多くの人はモーションでモトクロスからクロスカントリー、林道走行までこなすことができるのではないでしょうか。ただインスティンクト、モーションともに剛性はかなり高く、重量もコンプに比べて重いのでツーリングに使うには少しオーバースペックかもしれません。

コンプはこの2足に比べてだいぶ軽く、剛性も低めなので、ツーリングでも使いやすいブーツに仕上がっています。カラーリングもトレールバイクに馴染みやすいものが多いですね。ただし、先にも書きましたが鈴木健二選手のように柔らかいブーツの方がアクティブセーフティに優れていると判断するトップライダーも少数派ながら存在します。

このように使用用途だけでブーツを決めることは難しいのが実情です。ライダーのレベルやライディングスタイルによっても変わってきますので、ぜひ実際にお店に足を運んで試着してみてください。そしてただ履くだけでなく、お店の人に許可をもらって屈伸運動をしたり、店内を少し歩いてみるとイメージが掴みやすいと思いますよ。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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