バイク メンテナンス

一人でできるようになる、チェーン・スプロケット交換

整備初心者のライドハック編集部伊澤がチェーンとスプロケット交換に挑戦。交換の手順に加え、交換に便利なアイテムもご紹介。

バイクに乗り始めたばかりの方や整備初心者にとって、自分で整備をするということは難易度が高く、戸惑うことも多いでしょう。バイク屋さんに整備を任せることもできますが、練習やレース会場での急なトラブルに対応するためにも、一人で整備をできると安心です。そこで今回は、一人でもチェーンとスプロケット交換可能な方法を解説していきます。

左:伊澤、右:寺尾店長

今回作業に挑戦したのは、ライドハック編集部の伊澤です。全日本モトクロス選手権のレディースクラスに参戦していた経験もありますが、整備は基本親に任せていたため初心者。今は自分で整備できるよう努力中です。

今回は伊澤の愛車、ハスクバーナ TC85のチェーンとスプロケットの交換を行います。なお、チェーンと言ってもその種類は一つではなく、使うバイクによって以下の3タイプに分けられます。

1.トレール(公道バイク)→シールチェーン、カシメ

2.エンデューロマシン→シールチェーン、カシメあるいはクリップ

3.モトクロッサー→ノンシールチェーン、カシメあるいはクリップ(圧入・非圧入あり)

TC85はモトクロッサーですので、ノンシールチェーンを交換します。

交換方法を教えてくれたのはダートバイクプラス瀬戸店の寺尾店長。同店はバイク用品の販売に加えて、チェーンやスプロケット、タイヤ交換などバイクのメンテナンスを行ってくれる「ピットサービス」を行っています。マシンメンテナンスに不安がある人は気軽に相談してみましょう。

チェーンとスプロケットの関係

オフロードバイクはエンジンパワーをフロントスプロケットからチェーンを通してリヤスプロケットに伝えることで動きます。走る中で摩擦が起きて、スプロケットが削れ、チェーンが伸びるため、交換をする際には3点同じタイミングで行うことをおすすめします。

交換時期について

チェーンは「横ぶれ」を見る

では、チェーンとスプロケットはどんな状態になったら交換すべきなのでしょうか。寺尾店長によると、チェーンの交換時期は横ぶれで判断するといいます。

「チェーンのたるみ具合を見るという話をよく聞きますが、チェーンがたるんでいる、という状態は本来バイクにおいては必要なことです。オフロードバイクの場合、スイングアームの動く量が多いため、チェーンに余裕を持たせる必要があり、特にマディコンディションの時はチェーンが張りすぎないように、通常以上にたるませたりもします。なので、私の場合たるみというよりはチェーンの横ぶれで判断しますね。ただ、たるみを確認しないと言うわけではありません。チェーンの伸び具合を調整するチェーンアジャスターを最大限引いてもチェーンのたるみが直らない場合は、たるみすぎている状態なので交換が必要です」(寺尾店長)

チェーンの横ぶれを確認。かなり横にずれることがわかります

チェーンを上に持ち上げてたるみを確認

チェーンアジャスターを最大限に引いた状態で、上の写真ほどたるんでいると交換が必要

2つのポイントを目安に確認してみると、まず、チェーンアジャスターを最大限に引いた状態でかなりチェーンがたるんでいました。また、チェーンの横ぶれもかなり見られ、交換が必要だとわかります。

スプロケットは「山」を見る

リヤスプロケット。写真左:新品/右:使用済み

フロントスプロケット。写真左:使用済み/右:新品

一方、スプロケットの交換時期は「山」で判断します。山とはスプロケットの凸部分のこと。走行しているとスプロケットとチェーンの間で摩擦が起き、徐々に削られていきます。実際に新品と使用済みのものを比べると、新品の山よりも使用済みの山の方が摩耗し、尖っていることがわかります。摩耗するとチェーンとスプロケットに隙間が生まれ、最悪の場合走行中にチェーンが外れてしまう危険性もあるので注意して見ておくと安心でしょう。

チェーンとスプロケット交換の手順は以下の通り。

  1. チェーンを外す
  2. ホイールを外す
  3. リアスプロケットを交換
  4. フロントスプロケットを交換
  5. ホイールをつける
  6. 新しいチェーンをつける

今回はこの手順に沿って、それぞれの交換の仕方を説明していきます。

1.チェーンを外す

まずクリップ位置を確認します。クリップを外す時は、プライヤーを使用します。なお、トレールバイクやエンデューロマシンでも一部使われるシールチェーンの場合は、カシメという方法で結合されています。プライヤーでは外せません。

※専用工具としてチェーンプライヤーというものも存在します。チェーンプライヤーはクリップを外す・装着する作業に向いた先端形状になっています。ダートバイクプラスでは「HOZAN チェーンプライヤー」を販売しているので、まだ持っていない方はこれを機にぜひチェックしてみてください。

クリップを外していきます。左側をチェーンに、右側はチェーンクリップの縁に引っ掛け、ぐっとはさみ込むことでクリップが外れます。

クリップが外れた状態

クリップを外すと、チェーンを結合させるクリップ・プレート・ピンの3点が取れます。この3つでチェーンが結合しているわけですね。

あとはチェーンを引き抜くだけ。リヤタイヤの方向に引っ張り、全て外れたら完了です。

左:新品チェーン、右:使用済みチェーン

なお、チェーンを縦向きにして地面と並行に持ってみると、使用済みチェーンの方が湾曲しているのがわかります。これはチェーンのコマ一つ一つの穴やピンが摩耗しているということ。コンマ1ミリの摩耗具合でも、100個以上のコマが重なれば傾きにつながり、写真のように斜めに曲がります。新品と比べるとその差は歴然。どれだけチェーンが摩耗しているかを実感できますね。

2.ホイールを外す

チェーンを外したら、次にリヤスプロケットの交換に移ります。リヤスプロケットはリヤホイールに固定されているため、まずはホイールを外す作業から取り掛かりましょう。ホイールを外すために固定しているナットを緩めます。

ナットを外したらアクスルシャフトを手で引き抜くことができる……はずですが、ここでグリスが乾いていたり、普段の整備が疎かになっているとアクスルシャフトが抜けません。私は手で引っ張っても抜けなかったため、プラスチックのハンマーで叩き出していきます。

ハンマーで叩き出し、残りは手で引っ張ることができました

ホイールの重量がアクスルシャフトにかかっていると抜きづらいため、アクスルシャフトを引き抜く時は写真のようにつま先をホイールの下に入れて浮かせると良いでしょう。

こちらがアクスルシャフト。抜く時の動きがあまりに渋かったため錆びているのでは……と心配しましたが、錆びてはいませんでした。よかった。

3.リヤスプロケットを交換

ホイールを外したら、リヤスプロケットの交換を行います。ホイールを地面に置いて作業する方もいますが、かがんだ姿勢で作業をすると腰を痛めることもあります。そこで紹介したいのが「UNIT タイヤチェンジャー プロ」です。

UNIT
タイヤチェンジャー プロ
¥17,600(税込)
カラー:ブラック
組立サイズ:幅/奥行 750 × 高さ 720~920 (mm)
シャフト径:14mm
重量:7kg

同製品はいわばホイール作業専用の台で、スプロケット交換やタイヤ交換時にかがむことなく、立って作業することができます。16インチのタイヤサイズから対応しており、作業のしやすい高さに調整することも可能です。また、折りたたんで持ち運べるタイプの「ポータブルタイヤチェンジャー」もラインナップしているので、家でも遠征先でも、作業環境に合わせて選ぶことができますよ。

さて、リヤスプロケットを交換していきます。リヤスプロケットは表面側のボルト、裏面側のナットによって固定されています。ただし、ボルトから外そうとすると舐めてしまう可能性があるため、写真のように、まずは裏側のナットを緩めていきます。

なお、ナットを外す際に上側のボルトを工具で固定すると外しやすくなります。

最初に力を入れるタイミングが一番舐めやすいので、注意しつつ力を入れていきます。一度ナットが緩めば舐める心配はないので、少し緩んだら上側のボルトを回して外すと良いでしょう。

リヤスプロケットを外すと砂や埃がかなり溜まっていたので、新品に変えるタイミングでパーツクリーナーで綺麗にしておきます。汚れが付着したままネジをつけると、トルクが正しくかからなかったり、ネジ山を傷めたりと悪さをする原因にもなるのでこのひと手間は大切です。

ネジロック除去中

リヤスプロケットを固定するネジにも汚れが溜まっています。もし、ダイス(ネジを切る工具)を持っていたらダイスを使って、持っていない方は真鍮ブラシで磨き、汚れを落としましょう。なお、ダートバイクプラス瀬戸店でチェーンとスプロケット交換をお願いすると、ネジロックの除去までしてくれるとのこと。細かな気遣いを感じられます。
DRC
デュラ リヤスプロケット
サイズ:420/428/520
※価格、適合車種はこちらをチェック

装着部分とネジを綺麗にしたら、いよいよ新品のリヤスプロケットを取り付けていきます。今回交換したのはDRCの「デュラ リヤスプロケット」。スチール製なのでアルミ製と比べて耐久性が高く、レーザーカットで肉抜き加工されているため一般的なスチール製スプロケットと比べて約3割軽量化されています。また、私がこれまで使用してきた純正のリヤスプロケットはシルバーでしたが同製品のカラーはブラック。見た目が引き締まった印象になるのも楽しいです。

装着方法は、4つの穴に合わせて新品リヤスプロケットを置き、ボルトで固定すれば完了です。固定する時の注意点としては、時計回りに一つずつ締めていくのではなく、対角線上のボルトを締めていくこと。写真の矢印のようなイメージです。右2本のボルトを締めると、必然的に左側が浮き上がる状態になり、締めていく際に偏りが出てしまうので、偏らないようボルトを締める順番を意識しましょう。

4.フロントスプロケットを交換

カバー外し中

リヤスプロケットを交換したら、フロントスプロケットを交換していきましょう。フロントスプロケットカバーを外すとスプロケットが見えてきます。

TC85のフロントスプロケットはボルトで止まっているのではなく、スナップリングで固定されています。スナップリングの穴にスナップリングプライヤーをはめて、外側に開くと外すことができます。なお、スナップリングを外す場合には専用の工具「スナップリングプライヤー」が必要となるので、あらかじめ準備をしておきましょう。

なお、通常はボルトで固定されているのが一般的だそうです。スナップリングがついているのはKTM/ハスクバーナ/GASGASといった外国産車なのですが、セローなどでも小さい丁数のスプロケットになるとスナップリングを使って固定するものもあるので、購入するときにチェックしておきましょう。

外したらタオルで汚れを拭き、フロントスプロケットを装着。奥までしっかりとはめましょう。

はめた後はスナップリングで固定し、カバーも取り付けて完成です。

なお、フロントスプロケットのセンターが大きなボルトで止められている場合はインパクトレンチが欲しいところ。また、スプロケットを固定する板をボルト2本で固定しているマシンもあります。その場合、ネジロックを塗布しておかないと走行中にボルトがゆるみ飛んでいってしまうこともあるので気をつけましょう。

5.外していたホイールを取り付ける

これでスプロケットは全て交換し終わったので、外したホイールを取り付けていきます。ホイールを取り付ける際、まずはチェーンアジャスターのネジをチェック。このネジは雨や洗車時に濡れてとても錆びやすい部分で、錆びるとネジが回らなくなり、力を入れると折れてしまうこともあります。寺尾店長いわく「大抵知り合いの誰かは折っている」と言うほど、折れる確率が高い部分とのこと。この「知り合いの誰か」にならないよう、こまめにグリスアップすることをおすすめします。

グリスは銅グリスをおすすめします。銅グリスは一般的なグリスよりも落ちにくく、ネジのかじりや焼き付きを防いでくれます。つけるのはネジ全体ではなく、先端のみ。装着時にネジを回すと必然的に先端につけた銅グリスが全体に行き渡るため、全体に塗る必要はありません。

アクスルシャフトにもグリスをつけます。つける量は薄く伸びる程度が丁度良いです。

ホイールをはめたらアクスルシャフトを差し込み完了です。

6.新品チェーンを取り付ける

DRC
プロチェーンツール
¥11,550(税込)
サイズ:420/428/520/525/530まで対応
カラー:ブラック

チェーンは、長さがあらかじめカットされているものもあれば、自分で長さを調整するものもあります。今回は後者のタイプのため、チェーンの長さを調整するためにチェーンカッターを使います。製品は様々ありますが、おすすめは「DRC プロチェーンツール」。これはダートフリークの先代社長が設計したもので、仕様変更をしながら15年以上販売を続けているベストセラー商品です。寺尾店長も「これは本当に使いやすいです」と一押しするほど。

使い方は、両サイドでチェーンを挟みピンを固定。プロチェーンツールのネジを回していくことで中のピンが出てきて、チェーンについたピンを撃ち抜くという仕組みです。結構な力をかけるので、ネジを回す時は工具を使います。

伊澤「チェーン”カッター”と言っても、チェーンを切るのではないんですね!」

チェーンの長さを調整できたら装着していきます。リヤスプロケットからフロントスプロケットにかけてチェーンを引っ張って取り付けます。重さでフロントスプロケットとの間でチェーンが下に落ちてしまうことがあるため、これを整えながらはめていきましょう。

一周して、これでピッタリ! と思いきや、チェーンが半コマ余ってしまいました。しっかり合わせたはずなのに……と考えたところ、アクスルブロックを右向きにしていることに気づきました。アクスルブロックの向きによって半コマ分短い状態にするか、半コマ分伸ばした状態にするかを調整します。

ちなみに、半コマ分短いとホイールベースが短くなり、コーナーが曲がりやすくなります。しかしウイリーしやすくなったり、真っ直ぐ走る時の安定感が低くなるデメリットもあります。一方、半コマ分長い、つまりホイールベースが長いと直進時の安定性が生まれます。これは全日本モトクロスライダーもよくやっているセッティング術で、どちらを選ぶかは好みです。私は安定性を求めてホイールベースを伸ばす方向をチョイス。ということでブロックの向きを変えてチェーンを装着し直しました。

チェーンを一周させたら、あとはクリップで固定するだけ。ピンをさして、表側からプレートを重ね、クリップで固定します。ここでの注意点は、進行方向とクリップの開き口が逆になるようにつけること。進行方向と同じ向きに開き口があると遠心力でクリップが飛んでいってしまうため、間違えないように気をつけましょう。

チェーンの接続方法は

1.カシメ、プレート圧入タイプ

2.クリップ、プレート圧入タイプ

3.クリップ、プレート非圧入タイプ

※順に接続が弱くなる。レーサーは3が多い

があり、圧入の作業はガイドプレートで押し込む必要があります。今回は圧入が必要でした。ここで再び登場するのがプロチェーンツール。パーツを付け替えることでプレートを圧入することもできるのです。

チェーンを結合させたら、チェーンアジャスターで張り具合を調整していきます。この時、チェーンとスプロケットの間に工具を挟み、ゆとりを持たせることが重要です。また、アジャスターの目盛りは左右同じ位置になるように注意しながら位置を決めます。アジャスターのナットを締め、挟んだ工具を取って張り具合を確認したら完成です。このナットが緩んだまま走るとネジが折れることがあるので、走行3回に1回くらいを目安に緩んでいないか確認しておくと安心です。

なお、チェーンはどれくらい張れば良いのか、寺尾店長に聞いてみると「オフロードやリンクレスのバイクは少し緩めにするのが丁度良いです。TC85だと1つ目の目盛りの角とアジャスターの先端が合う位置ですね。あとはコースコンディションによります。ハードパックのコースだったら張りをキツく、マディコンディションだったらゆるくすると良いと思います」とのこと。

最後にネジを締めて、ホイールを固定。

完成です!!

チェーンを外してホイールを外して……と一見大掛かりかつ複雑に思えて、作業前は緊張していたのですが、一つずつ手順に沿っていくと、その手順は外して付け替える、という単純なものでした。また、作業を通してマシンがどうやって作られているのか、どこのネジが緩むといけないのかなどを知り、マシンへの理解度が深まり、マシンへの愛着度も高まりました。チェーン・スプロケット交換に挑戦しようと考えている方はぜひこの記事を参考にしてみてください。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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