お店 瀬戸市

火と土の街、瀬戸を伝えるお土産店「ヒトツチ」

瀬戸物以外の土産物を扱うお店が少ないと言われていた瀬戸の街に、新たに様々な商品を扱うお土産店がオープン。。瀬戸物や雑貨、窯垣の小径クッキーなど、瀬戸の歴史がぎゅっと詰まった「ヒトツチ」を取材

ヒトツチ-せともの土産-

〒489-0814 愛知県瀬戸市末広町2丁目22 せと末広町商店街内
営業時間:10時〜17時(平日は16時CLOSE)
定休日:火・水曜日
※宮川駐車場すぐ(1h無料)
https://hitotsuchi.jp/

お土産で瀬戸と人を繋ぐ

愛知県瀬戸市と言えばなんといっても瀬戸物が有名ですが、その他の名産品がこれまではあまり知られていませんでした。そんな中、焼き物や雑貨、クッキーなど瀬戸土産となるものを集めてオープンしたのが「ヒトツチ」です。実は、オーナーである南さんは以前ライドハックでご紹介した瀬戸のゲストハウス「ますきち」のご主人です。宿を営む中、なぜ土産店をオープンしようと思ったのでしょうか。

「瀬戸ってお土産が少なくて、宿でお客さんとお話をしている中で『土産品はないんですか?』と聞かれることが多かったんです。実際、自分も瀬戸に住んでいる身として手土産をすごく探していたんですよね。手土産って焼き物が良いかと言うとそうじゃなくて、やっぱり焼き菓子や雑貨などが贈りやすいじゃないですか。でも瀬戸にそれを集めて販売している場所がないんです。だからといって、瀬戸に焼き菓子や雑貨などのお土産が存在しないわけじゃないことも、宿をやってきてわかっていました。瀬戸には焼き物はもちろん、焼き菓子店やカフェなど食品系のお店もたくさんあるから、そういったお店のものを集めたら、手土産あるいはお土産のお店が作れるんじゃないかと思い立って、土産店をオープンしました。考えついたのが2022年11月で、オープンしたのが2023年4月なので、かなり勢いでオープンしちゃいましたね(笑)」

また、南さんはお土産の役割も見出しています。

「お土産ってめちゃくちゃ重要だと思っているんです。お土産は渡す人だけじゃなくて、受け取る人もいて成り立つものじゃないですか。手土産でもお土産でも、こういう街に行ってきたよ、とか、自分の住んでる町はこういうところでこの店が好きなんだよ、とか、お土産を渡すことで街と人の繋がりが広がるんですよね。そして渡す側も受け取った側も、お土産を通してその町に愛着が生まれて、訪れるきっかけになる。そういった連鎖が作りたいという思いもあって、土産店をオープンしました」

「ヒトツチ」の由来

「これだけ色々な焼き物のお店があることは、やっぱり歴史があるからだと思っています。瀬戸の街は良い粘土が採れて、人々はそれを釜で炊き、焼きものを作ることで生活を営んできました。焼き物の歴史を持った瀬戸、『火と土の街を人に伝える』というのをコピーにヒトツチと名付けました」

ヒトツチはせと末広町商店街の一角にあり、まるで焼き物を作る窯のような外観が印象的です。話を聞くと、お店は窯をイメージして作られているといいます。 

「真っ白な鉱山と瀬戸の粘土の白いイメージが伝わるように、店内は瀬戸の粘土を半分混ぜた漆喰で仕上げています。店舗の外観は火をイメージしていて、店構えでヒトツチ(火と土)を表しています。ちなみに、店舗の外に点いている赤いライトはお店を閉めてる時でも点けています。こうすることで、準備中=釜で炊いている、というイメージを表現しています。全然伝わらないんだろうなと思いますが(笑)」

瀬戸のお土産

店内に入ると、焼き物や洋菓子、コーヒーや雑貨などがずらりと並んでいます。焼き物は磁器から陶器、ノベルティが揃っており、店内を一周するだけで瀬戸物の歴史を肌で感じられます。

手土産にぴったりなオリジナル商品

ヒトツチでは、手土産にぴったりな洋菓子やコーヒー、紅茶が用意されています。これらはヒトツチと瀬戸の洋菓子店やカフェとのコラボ商品。そこにはオーナー南さんのこだわりも詰まっています。

「やっぱり何か箱に入って、1000円ぐらいで買える手土産が欲しいなとずっと思っていたので、土産店を開くにあたってオリジナル商品として作りました。クッキーはEISENDO(えいせんどう)という洋菓子店が作ってくれていて、全てパティシエさんの手作りです。コーヒーと紅茶も瀬戸土産になるようにうちオリジナルとして作ってもらいました。コーヒーはlittle flower coffeeさん、紅茶はえいこく屋さんとのコラボ商品になっています。えいこく屋さんは本社は名古屋なのですが、瀬戸に工場と倉庫があって、担当者の方と話してブレンドしてもらいました。パッケージは瀬戸の画家さんにお願いし、瀬戸の鉱山をイメージした絵を描いてもらいました。コーヒーのパッケージは粘土を干している様子だったり、クッキーは窯垣の小径を表していたり、瀬戸の風景を伝えるシリーズとして考えました。食べ物をきっかけに街のことを知ってもらい、また瀬戸に来てもらえたら嬉しいですし、クッキーと焼き物を合わせて渡す、という流れができていったらいいなと思います」(南さん)

せともりプロジェクトで生まれた木工品

店内を見ていると「せともりプロジェクト」という看板とともに置かれた商品を発見。これは瀬戸の森事情を生かしたプロジェクトで、今新たな動きを作っていると言います。

「瀬戸の森って、焼き物の燃料にするために木を切りすぎて一度ハゲ山になっているんですよ。その後植林して、今は逆に過密になってしまって、そこで造園会社さんが木を切り始めました。そこに協力しようと木工作家さんが間伐材を使ったもの作りを始めると、共感した人たちが、たとえば間伐材の桜を使って燻製を作ったり、その灰を使って、焼き物の釉薬を作ったり、木工製品を作るときに出るおがくずで染物をする方がいたり、就労支援を兼ねて商品を制作したり……。ものづくりに還元するサイクルが生まれています。これが行政が何も入っていない民間で自然に成り立ってるのが面白いんですよね」(南さん)

ただ焼き物を作るだけではなく、焼き物を支える環境を守る、瀬戸の人柄が感じられます。

時代の変化に合わせて生き残ってきた瀬戸物

焼き物、というと器を思い浮かべる人が多いと思いますが、器以外にもノベルティや小皿などその種類はさまざまです。店内に入り左へ行くとまず色鮮やかなノベルティが迎えてくれます。

「瀬戸物といっても、磁器や陶器、ノベルティ人形など幅広いんです。それぞれに歴史があって、例えばこのノベルティ人形を作っている玩具工房は、昔だと家で内職して作っていたりしたそうですが、今は玩具工房を運営する瀬戸陶芸社という会社の職人さんが全て手作業で作っています。こういうノベルティをちゃんとたくさん作れるところって全国的に見ても少ないのですが、中でもこちらの玩具工房は現代に合う形で色使いを考えたり、ポップなんだけど、デフォルメすぎない絶妙なラインで作っていて、僕はすごく好きなんです」(南さん)

王子窯のすり鉢。重油で作ることで生まれる風合いが美しい

焼き物というと大体電気かガスで焼成する窯が多いですが、この製品を作る王子窯は重油を燃料にした重油窯にこだわっています。重油で焼く方法はオイルショック前は多く見られましたが、オイルショックが起きてからは一気になくなり、全国でも数えられるほど珍しい製法となっています。また、瀬戸焼の代表的な釉薬の一つである志野釉を使用しており、釉薬がかかった部分は白みがかり、重油で焼くことで出るムラ感が特徴的です。重油のかけ方によっては焦げた感じなども出て風合いを感じられます。

瀬戸を中心に生産が始まった「馬の目皿」も購入することができます。馬の目とはお皿に描かれた模様のこと。馬の目のように見えることからそう呼ばれています。使い続けるとちょっとずつ色合いの味が出てきて楽しめます。大皿に料理を盛って食卓に出すとそれだけで迫力が出ます。

銅板転写技術による瀬戸染付を得意とする「椿窯」のマグカップ。自然灰の釉薬を使用しており、モダンかつシンプルで温かみがあります

また、瀬戸は粘土が非常に優秀で、配合を変えるだけで磁器も陶器も全て作れます。全国の中でも一番粘土が採れているのが瀬戸で、この環境の良さが焼き物文化を支えています。南さんによると「良質な粘土があることで、時代が変わる中で求められるものが変わっても、ちゃんとそれに合わせて作ることができてきました。時代に合わせる人は合わせて変化し、自分達がやってきたことを残したいという人たちはしっかり残る、これが瀬戸なんです」とのこと。ヒトツチには各時代の焼き物が揃っているからこそ、その歴史をも体感できます。

では、時代に合わせて変化してきたものとは何でしょうか。例えば、聖新陶器株式会社は焼き物から派生して栽培キットを製造しています。ゾウや卵、ブロックなど目を引く器が特徴です。もちろん、器は陶器でできています。水を入れるとゾウの背中や卵の中から植物が生えてくる、見た目も楽しい栽培キットになっています。

さらに、元々型屋で石膏を下ろしていた会社は、子供たちにも楽しんでもらえるものを作りたいと、アロマストーン作成キットや粘土セットなど、施工の特性を使ったものを作っています。一見瀬戸物に関係ないような商品でも、実は瀬戸に根付いた会社が関係しているのです。

焼き物メーカーセラミックジャパンの花瓶。デザインはプロダクトデザイナーの小松誠さんが担当し、まるで紙袋のようなしわや質感が特徴的。MoMA(ニューヨーク近代美術館)のパーマネントコレクションにも選ばれています

雪だるまならぬ酒器だるま。徳利と盃2つのセットになっていて、頭にあたる部分を取ると盃が2つ。冬は盃を重ねて湯煎、夏は雪だるまのまま冷蔵庫へ入れることができます

ヒトツチで感じる瀬戸物の歴史

瀬戸物は、代表する焼きものがある、というわけではなく、瀬戸で作られる磁器・陶器・ノベルティなどをまとめて指すため、何が瀬戸物なのか定義づけるのが難しいです。しかし、だからこそ瀬戸物を見ると、焼き物全体の歴史や流れがわかると言います。

M.M.Yoshihashiが手がけるカップ。ニット模様を陶器で再現しているユニークな一品。RIDE-HACKでも取材しています! 記事はこちら

「元々江戸時代あるいは平安・鎌倉時代から陶器を作ってきたところに、明治に入って磁器が登場し、家族で焼き物を量産できる窯元が出てきます。kosiraelを手がける春暁陶器さんではローラーマシンや転写といった技術を使い、量産体制で製造を行なっています。この量産体制ができたことで、型屋などが生まれ分業化が進みました。

ただ、焼き物作りが厳しい時代もあるんじゃないですか。その時に陶器で伝統的なもの作っていこうとか、ノベルティ人形のデザインを変えようとか、個々のジャンルでちゃんと自分たちのポジション取って生き残ってきた人たちが今の瀬戸を作っているので、それぞれのクオリティがめちゃくちゃ高いんです。

例えば、ニット模様が印象に残るM.M. YOSHIHASHIさんは元々型屋だったんですが、オリジナルブランドとしてM.M. YOSHIHASHIを立ち上げて、型屋の技術を使った窯元として作品を作っています。また、作家性の高いものも出てきて、色鮮やかな器やアクセサリーなどバリエーションも増えてきました。時代は移り変わっても、各時代で人の個性がちゃんと生き残ってるんですよ。瀬戸に来ると、それぞれの時代を生きてきた歴史が見えるから、焼き物全体の歴史が見えるんですよね。これって他の産地もそうなりそうなものなんですけど、これだけ各時代の焼き物が残っているのは全国見てもほとんどないんですよ。備前だと陶器の焼き締めといった象徴的な技術が代表されるのに対して、瀬戸は一つにまとまらないのでブランディングしづらいんですけど、それは時代に合わせて生き残ってきたという証なんです。

ヒトツチでは、お土産を通してこういった瀬戸の焼き物の歴史がわかるのが面白さの一つです。これはいいなと本当に思うものをうちの店に置いています。例えば、ますきちに来てくれた人が好きだと思ってくれるかなとか、瀬戸らしさがちゃんとそこに出ていてお土産なるだろうな、というものを集めたお店になってます」(南さん)

今回の取材を通して、土産品一つ一つに瀬戸の歴史が詰まっているということ。そして、ヒトツチはお土産を通して瀬戸の歴史と魅力を伝え、人を繋ぐ場所であると思いました。瀬戸に足を運んだ際には、街で感じた雰囲気をお土産として持って帰ってみてはいかがでしょうか。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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