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体験し、鑑賞し、憩う。瀬戸の新たな発信拠点「スタジオ894」

2023年9月、やきものの街愛知県瀬戸市に「スタジオ894(ヤクシ)」がオープンしました。体験・鑑賞・憩うという3つの要素が融合した新たな瀬戸のスポットを、ライドハック編集部が体験取材。

STUDIO 894(スタジオ ヤクシ)
営業時間:10:00~17:00
※絵付け体験 最終受付15:30/コーヒースタンド ラストオーダー16:30
定休日:火曜日(祝日の場合は営業)/年末年始(12/29〜1/4)
住所:〒489-0821 愛知県瀬戸市薬師町1番地
TEL:0561-84-0894

スタジオ894を運営する「中外陶園」

薬師窯の始まりは1952年

愛知県瀬戸市は、丘陵地帯で原料となる粘土を採取でき、山間地帯では樹林を利用した窯業者が多かったこともあり、焼き物の生産が盛んでした。その歴史は1000年を超え、陶器、磁器など時代の変化に合わせて新たな製法を取り入れることで瀬戸独自の「せともの」として発展させてきました。そのため、瀬戸には多くの窯元が存在していますが、時代の変化によってその数は減少してきているのが現状です。一方、時代に合わせたデザインや製品を提供することで時代に淘汰されることなく、せとものを作り続ける窯元も多くいます。

スタジオ894も時代の変化に合わせて作られた施設の一つ。運営しているのは株式会社中外陶園で、「薬師窯(やくしがま)」というブランドで干支の置物や招き猫、雛人形、五月人形といった縁起置物や季節飾りなどを製造しています。さらに同社は瀬戸市の観光スポットの一つである招き猫ミュージアムを経営しており、店頭では招き猫を実際に手に取って見たり、購入することできます。つまり、ものづくりの拠点となる薬師窯と製品を販売する招き猫ミュージアムに加えて、新たな拠点としてオープンしたのがスタジオ894です。

スタジオ894は「体験する」「鑑賞する」「憩う」という3つのテーマが融合しています。これは中外陶園の現社長である鈴木康浩氏(以下:鈴木氏)が提案されたものだそうです。鈴木氏にそのコンセプトについて尋ねると、

「会社の創業の地が瀬戸市の薬師町で、私もずっと瀬戸で育ってきました。コロナをきっかけに街に人がいなくなったことに対して切実に危機感を感じ、コロナ禍があけた後に多くの人に瀬戸市に遊びに来てほしいと考えるようになりました。弊社は招き猫を作っているのですが、実際まだ自分達が招き猫の恩恵に預かれていなくて。瀬戸市に来るきっかけになる場所として、ここ(スタジオ894)を起点に瀬戸を観光してもらったり、瀬戸のやきものや街の魅力を発見してもらえたらいいなという思いでこの施設を作りました。「体験する」「鑑賞する」「憩う」という3つのテーマは、それぞれに対する思いがあって、これらを融合させることが良いんじゃないかと掛け合わせました」とのこと。それぞれに対する思いとは何でしょうか。3つのテーマを紐解いていきましょう。

職人の技を自分で「体験」する

体験スペース

中外陶園は陶器づくりの工程の中で絵付けも行っています。スタジオ894では実際に絵付けを体験することができ、作業を通してせとものづくりの楽しさや難しさを体感できます。鈴木氏は「この施設のコンセプトとして『体験する』ことが1番の根幹にあります。僕らが行っているものづくりを自分の手で体験してもらうことで、職人の技のすごさとか、楽しさを感じてもらいたいですし、体験した子供たちがせとものに興味を持ち、将来瀬戸に来てくれたら嬉しいです」と語ります。

店内に入ると右側に体験スペースが広がっています。絵付け体験は陶器に絵付けをするコースと磁器に絵付けをする2つのコースがあります。陶器絵付けコースは素焼きに対して絵付けをしていく内容です。色鉛筆や絵の具で簡単に色をのせることができ、当日に持ち帰ることができます。一方、磁器絵付けコースでは磁器の素地に専用の絵の具で下絵付けをする、本格的な体験ができます。絵付け完了後はスタジオに預け、釉薬をかけて焼成して完成させます。絵付け完了後から手元に届くまで1ヶ月ほどかかりますが、焼き上がりを待つという工程は焼き物にとって欠かせないもの。

なお、陶器と磁器の違いは原材料です。陶器は粘土を原料にし、磁器は長石や珪石といった石を原料としています。せとものの歴史は陶器づくりからスタートしており、磁器の生産が始まると、2つを区別するために陶器づくりを本業焼、磁器づくりを新製焼と呼ぶようになったと言います。

陶器絵付けコース
料金:¥1,000(税込)
所要時間:1時間

磁器絵付けコース
料金:¥1,400〜2,500(税込)
所要時間:1時間

体験スペースには棚があり、見本や絵付けをする素焼き素地(すやききじ)が並んでいます。素地は、中外陶園の軸となる製品ともいえる招き猫や干支、季節飾り、お皿など実用的なものまで揃っています。今回の取材のタイミングが11月末とクリスマスに近い時期のため、季節飾りとしてサンタさんの置き物やオーナメントが用意されていました。

さらに、棚にはポケモンやBEAMSとのコラボ商品も飾られています。こちらに挑戦したい方も多いと思いますが、こちらはコラボ商品のアーカイブで、絵付けはできないとのこと。

さて、今回ライドハック編集部は陶器絵付けコースを体験しました。絵付けする素地としては招き猫を選びました。招き猫の種類は右手を挙げている猫、左手を挙げている猫、両手を上げている猫の3つがあります。挙げている手が右だとお金、左だと人との縁を招くという意味があり、どちらの縁も欲しい方は両手を上げている猫を選ぶそうです。今回は欲張りに両手を挙げている猫を選びました。

真っ白な素地を前に、どんなイメージで絵付けていくかを想像するのはとてもワクワクします。絵付けに使われる画材はクーピーや絵の具など。必要なら用意された鉛筆と消しゴム使って最初に下書きをすると安心です。ただ、下書きは跡が残ってしまうことがあるので、正確に描きたいなら下書きあり、跡を残したくないなら下書きなしで絵付けするのが良いでしょう。

せっかくならオフロードのイメージを出したいと思い、ゴーグルをつけさせることに。最初の一筆目は緊張しましたが、一度塗り始めると熱中し、黙々と作業を進めていました。

今回担当していただいたスタッフの方は「みなさん作業に熱中して、一緒に体験している相手の方との会話を忘れる方も多いです(笑)。作業時間は1時間としていますが、大体の方は丁寧に考えて絵付けに集中しているので、あっという間に1時間が過ぎてしまいますね。絵付けをする中で、自分が思い描くイメージを形にする楽しさや難しさを感じてもらえていると思います」と話します。スタッフの方が常にそばにいてくれるので、談話しながらデザインのアイデアを固めたり、塗り方のアドバイスをもらったり、終始和やかな雰囲気で作業ができます。

作業を始めて30分ほどで、オリジナル招き猫が完成! 絵付けのこだわりはオフロードゴーグルを着用させ、水玉模様で各バイクメーカーの色を配色したところ。発色も良く、色を塗るのがとても楽しかったです。ちなみに、中は空洞になっていて、背面にはお金の投入口、下には穴が空いていて、完成後は貯金箱として使えます。

瀬戸でゆっくり「憩う」場所

3つのテーマの中の2つ目「憩う」として、コーヒースタンドがあります。コーヒースタンドを開こうと決めた理由について鈴木氏は「元々、瀬戸の街にゆっくり過ごすスペースが少ないと感じていました。特に県外からせっかく瀬戸に来てもらったならゆっくりホッと一息ついてもらえる場所を作りたいと思い、コーヒースタンドを作りました」と話し、瀬戸に訪れる人の街の過ごし方を大切に考えて作られたことがわかります。

コーヒースタンドは東京の三軒茶屋にあるコーヒーロースター「OBSCURA COFFEE ROASTERS」がプロデュースを手がけています。ドリンクはスタジオ894をイメージしたオリジナルブレンドコーヒーや浅煎り・中煎り・深煎りのシングルオリジン、ラテや紅茶、ソフトドリンクを提供しています。カップは瀬戸焼のうつわを使用。こちらは施設の近くにある王子窯のうつわを使用しています。また、スイーツは熊本県天草市の洋菓子店「SWEETS-LABO BONGOUT」の焼き菓子を置いていて、コーヒーとの組み合わせも楽しめます。面白いのは、コーヒーとスイーツをあえて瀬戸のブランドではなく東京のロースタリーと熊本の洋菓子店にプロデュースをお願いしているということ。

「元々OBSCURA COFFEE ROASTERSのオーナーと共通の友達がいて、カフェを開くならぜひお願いしたいとお声がけをしました。瀬戸のお店にこだわるなど色んな方法があったと思うのですが、僕らが陶器メーカーとして一流を目指しているように、コーヒーの分野でも一流を目指しているOBSCURA COFFEE ROASTERSにお願いしたいと思いました。熊本のSWEETS-LABO BONGOUTは、一見なんの関係もないと思うかもしれませんが、実は瀬戸の磁器は元々熊本県の天草市から来ているんです。天草市で磁器の製法を学んで瀬戸に持ち込んだという歴史が250年前にあるんですよ。なので今回の繋がりは先人たちのネットワークの恩恵を受けています。SWEETS-LABO BONGOUTのオーナーは僕と1歳違いの方で、お互い現地で頑張っている者同士、今流の交わり方ができると良いよねという話をしていました。そこでお店を開くにあたって力を貸してくれないかと声をかけました。結局は、何か新しいことをしているのではなく、歴史を紐解いて、いろんな繋がりを知っていったらご縁が繋がり、この施設が完成したという感じですね」(鈴木氏)

やきものの分野で一流を目指すように、コーヒースタンドもアートギャラリーも「一流のものを目指す」と話す鈴木氏からは、これまで培ってきた職人としてのプライドが感じ取れます。

コーヒースタンドではOBSCURA COFFEE ROASTERSから指導を受けたスタッフがコーヒーを提供してくれます。絵付け体験の前にコーヒースタンドでコーヒーを頼み、飲みながら絵付けを行うことができるため、カフェをゆっくり楽しむもよし、作業のお供としてコーヒーを頼むもよし、と楽しみ方もさまざまです。

また、持ち帰り用のカップもあるので、フラッとお店に寄ってコーヒーを買っていくこともできます。894のコーヒーを飲みながら瀬戸を巡る、なんてプランも良いですね。

せとものをアートとして「鑑賞」する

店内の奥にはギャラリースペースがあります。せとものは食器やノベルティなど量産品が多いですが、ここではアートとして存在しています。

「僕らが作るものが量産品という面だけでなく、アートピースとしても価値があるものだということを表現するためにギャラリーを作りました。今日は丁度入れ替えのタイミングでギャラリーが空いていなくて残念なのですが、アート作品を展示するだけでなく、平面で表現するアーティストさんの作品を三次元にするという取り組みもしています。僕らのものづくりの技術をアート作品と掛け合わせることで、商品を作る技術がアートに昇華される。そういったところをギャラリーを通して見せていくことで、僕ら職人のプライドや仕事へのやる気にも繋がると思っています」(鈴木氏)

今回取材をさせていただいた時はギャラリーの入れ替えのタイミングということで閉まっていましたが、12月9日からは冬のリース・スワッグ展が開催されるなど、日本国内外で活躍をしているアーティストの作品が展示されます。鑑賞することで、アートとしてのせとものの魅力を感じることができるでしょう。

瀬戸にさらなる化学変化

「私の会社には薬師窯という窯銘もあり、地元の方からは会社名の中外陶園ではなく、『お薬師さん』と親しみを込めて呼んでいただくことが多くあります。地元の方にも愛される場所にしたいと思い、気軽に「やくし」と呼んでもらえるように、あえて894(やくし)と名付けました。漢字が読めない小さいお子さんもわかりやすいようにあえて数字にしています。また、ロゴマークは8が繋がっていなかったりとあえて不完全な状態にしています。これには、ものづくりをするように、会社もお店もみんなが成長してお店を完成させていくという思いを込めています。

招き猫や季節飾りを購入可能

スタジオ894オリジナルの招き猫もいます

また、コロナ禍前くらいから瀬戸にルーツのない方が街に来てさまざまな活動をされているケースが増えてきたなと感じています。商店街で新しくお店を出している子たちは東京出身だったり、愛知県以外の方が多くて、これによって今までにない瀬戸の街が作られていると思います。いろいろな文化を受け入れながら瀬戸の焼き物も残ってきたように、色んな方が入ってくることで面白い化学変化が生まれると思っています」(鈴木氏)

前述の通り、瀬戸は5年ほど前から街の雰囲気が大きく変化し続けています。この化学変化をさらに良い方向へと導くのが、スタジオ894になるかもしれません。訪れた際にはぜひ古くからの伝統技術を体験し、コーヒーを飲みながらゆっくり過ごし、アートに触れることで瀬戸の魅力をさらに発見してみてください。

https://studio894.jp/

 

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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