ダートフリーク石田社長を密着取材。社内に流れる不穏な噂は事実なのか……?
ライドハックを運営する我々、株式会社ダートフリークは、愛知県瀬戸市に本社を構えてバイク用品の開発/販売を行っている。そして、そのダートフリークの代表取締役を務めているのが石田敬一郎だ。石田は元々オンロードパーツを取り扱う株式会社デイトナに勤めていたが、2017年にダートフリークがデイトナの子会社になり、2020年に先代社長が退任した際に2代目ダートフリーク社長に就任。オフロードバイク業界を知るためにレースや各イベントを周り、今ではJNCCやWEX、ミニバイパニックなどのエンデューロレースからモトクロスの草レースまで、自らレースに挑戦し、お客様だけでなく社員やライダーからも「DFシャチョー」の愛称で親しまれている。そんな中、一部社員やスタッフの間でささやかれていることがある。それは「DFシャチョー、マーケティングリサーチのために始めたレース参戦に最近本業よりも本気(マジ)になってないか?」説だ。
ダートバイクプラスの公式YouTubeでは社長石田の挑戦が見れますよ!
もしそれが本当だとしたら由々しき事態である。今回、その噂が事実なのかどうか確かめるため、愛知県豊田市にあるMXフィールドトヨタで開催されるダートバイクプラスカップ(通称:ダープラカップ)最終戦に参戦する石田に1日密着取材をするふりをして調査してきた。
レース前夜
社長石田のレースは前日から始まっている。
ダープラカップ前日に行われたMXフィールドトヨタでの事前練習を終えた夜。ライドハック編集部は石田の家から程近いお店で夕食を共にすることになった。食事中、編集部員が石田の自宅がこの店からどのくらい離れているのか何気なく尋ねたところ、石田はサラッと「歩いて20分ほどだけど、走ったらもう少し早いかな」と答える。ん? 走る……? どうやら石田はランニングを兼ねてこの店まで走ってきたらしい。え? どういうことなの……結構昼間の練習走行キツかったよね? クールダウン? ふと気づけば普段なら頼んでいるだろうビールも見当たらないし、食べているメニューも心なしか脂質少なめ炭水化物多めに見えるし、この後も早々に帰宅してかなり早めに就寝して翌朝に備えるという。一方こちらはビールに揚げ物盛りだくさん、夜もコンビニでお菓子を買ってホテルで酒盛りしてから轟沈する気満々だったため、さっきからなんだかうまく石田の目を見れない。「(アスリート? なにこの意識の高さ……)」ライドハック編集部員の疑惑は確信に変わりつつあった。
レース当日 6:00am
石田の朝は早い。
というかダープラカップの朝は早い。6:00から受付を開始し、7:30には挨拶がわりにじゃんけん大会が始まる。その後、開会式とライダースミーティングを経て8:00から公式練習がスタートだ。早い早すぎる。まだ我々には昨日の酒とホテルで食べたポテチの胸焼けが残っていた。
そんな中、石田は運営スタッフと同様の時間にコースに入り、設営等の準備を進めていた。編集部員が眠い目をこすりながら石田のところへ向かうと、早朝から動いていたはずなのに気持ち悪いくらい爽やかな表情で談笑している。まるで少年のような目をしている。こちらは少年のような胃袋が欲しい。
受付後に行われたじゃんけん大会。商品はなんとアトラスのネックブレースだ。あまりの豪華さに参加者全員の目が覚め、一気に本気モードとなった(それまではみんな眠そうでした)。あたたまる会場、伸びる背筋。と、その時「よしよし、みなさん盛り上がってますね」と参加者たちの姿を微笑ましい目で見ていた運営スタッフ数名の間に衝撃が走った。石田が「勝った」みたいなドヤ顔でチョキを掲げていたのである。待て待て待て。しかも、結構勝ち抜いてるし。想像できるだろうか、石田がこのあとじゃんけんを勝ち抜いてネックブレースを手にした時の会場の空気を。その後、無事石田は敗退し事なきを得たが、関係者全員が心の中でホッと胸をなでおろしたのは言うまでもない。ダメだ、もうあの人、完全に自分がDFシャチョーであることを見失っている。
練習走行に向けて着替え始めると、会場にはレース前の緊張感が漂い始め、レースモードに切り替わっていく。
8:00am 練習走行へ
ダートバイクプラスカップは「本気で競い本気で楽しむモトクロス草レース」だ。だがまさか、関係会社であるダートフリークの社長が本気になるとはダートバイクプラスも思っていなかっただろう。2023年は4月・7月・11月の3回行われ、今大会が最終戦となる。初心者〜中級者向けのレースで、クラスはミニアマ/トレール/ワイドオープン/女子会/ミックスガス/4stミニ/アマオープン/アマ50/おじさんIBチャレンジ/プロオープンと多様なクラスが設定されている。さらに、2022 JNCCチャンピオン馬場大貴や2023 全日本エンデューロ選手権チャンピオン馬場亮太、2022 全日本モトクロス選手権IA1クラスチャンピオン富田俊樹やマイカルチャンプなどトップライダーも多く参加し、レースを盛り上げている。
石田は現在53歳。参加するのは50歳以上かつフルサイズマシンで競い合う「アマ50(アマフィフ)クラス」だ。実はこのクラス、開幕戦当初は設定されていなかったのだが、開幕戦を終えた石田含む同年代のライダーたちが主催者にかけあい、嘆願という名の脅しにも似た圧をかけ設立されたものだ。若者には体力ではかないませんよ、とうそぶきつつ、やっぱりレースで勝ちたいのだ。表彰台に上がりたいのだ。そんな本音が垣間見えた。その勝負への執念を社員の福利厚生に向けて欲しい、DF社員は素直にそう思った。
「ライダーの間で一番火花が散っているアツいレースだよ」
「あのクラスが一番ガチだからね、危険ですよ(笑)」
「あのクラスのレースが無事終わるといろいろな意味でホッとする」
参加している方々や運営の声を聞くと、アマ50クラスはなんともアグレッシブなクラスだという。それもそのはず、石田のほかに2022年全日本モトクロス選手権IA1クラス富田俊樹選手や道脇右京・白龍兄弟のお父上などモトクロスIAライダーたちを育てたパパワークス勢の他、地方選手権に現役で?参戦しているベテランライダーもいたりとレベルも質も資金力も相当に高いのだ。加えて今回は最終戦。ライバル同士のバトルがヒートアップすることは必然であった。みな、怪我のできない社会的責任のある人たちであるが、そんなことは関係ねぇ、という空気しか漂っていない。
練習走行はフルサイズマシンで競い合う初心者クラス「アマオープンクラス」と「アマ50クラス」の混走で行われた。石田はスタートから徐々にスピードを上げ、調子を整えていく。走行時間後半にはアマオープンクラスに参戦するオフロードバイクメディアOff1.jpの編集長稲垣氏の後ろをつつくシーンも見られ、気合いが十分に感じられた。
練習走行を終えた後は、同じくダープラカップに参戦するダートフリークスタッフにコース状況を共有。レースに我を忘れているように見えても、心の奥底には仕事人としての癖が残っているのかも知れない。
10:00am 決勝ヒート1
練習を終え、ついに決勝が始まる。
レースは5周の2ヒート制で行われ、スタートグリッドは先着順。石田は前のクラスが開始したタイミングに合わせてスタート地点に到着すると、真剣な眼差しでコース状況を見つめる。路面を見てスタートのイメージトレーニングをしているのだろう。グリッドに立つ前からすでに集中モードに入っているようだ。おそらく損益決算書を見る時よりも集中しているはずだ。
スタート前にはイベントMCのにゃんばちゃんが注目ライダーにマイクを向け、ひとことインタビューをするのだが、他ライダーがコメントしている間も石田は真っ直ぐと前だけを見つめていた。おそらく、このタイミングで「発注数間違えて0みっつ多く注文しちゃいました……」と耳打ちしてもスルーされるだろう。石田の精神はすでにアストラルプレーンを抜け、ひとり先にゴールラインに到達している、そんな風にも見えた。その後石田にもマイクが回ってきたが、コメントは「頑張ります」と一言。ちょっと社長、もうちょっとなんかあるでしょう、とにゃんばちゃんには全力で突っ込んでほしかった。しかし、言葉にはならない「2023年の総決算!やってやりますよ!」というオーラだけはビシビシと伝わってきた。
スタッフが旗を振り下ろしたタイミングでレースはスタート。てっきりドンピシャのクラッチミートで飛び出すものとばかり思ってたが石田は安全第一。周囲よりスタートのタイミングを遅らせて後方から攻めていった。
5周を走り切った結果は最後尾だったが、この大会は「本気」で楽しむことが第一。バイクを降りてスタッフやライダーと話す笑顔からいかに楽しかったかが伝わってきた。
12:00pm お昼休み
お昼休み。石田はいったいレース中に何を食べているのか。そう考えた編集部は早速突撃してみたが、お昼ご飯の取材はNGだった。何か特別なアスリートメニューがあるのか……と邪推したが
「普通にコンビニで買ったパンだから……。鰻だったらよかったんだけど(笑)」
と少し照れながらも正直に伝えてくれた。かわいい。ご飯を食べ終えると、スタッフやライダーと談笑して過ごす。朝から半日密着して感じたのは、スタッフやライダーとのコミュニケーション量の圧倒的な多さ。誰とでもフレンドリーに、楽しそうに会話をしており、石田がDFシャチョーとして親しまれる理由がなんとなくわかってきた取材班だった。
15:00頃 決勝ヒート2
ヒート2直前、これまでパドックで談笑していた笑顔が一転、集中した顔つきに変わる。先程のヒート1でこのコースにおけるレーシングスピードでのライン取りが掴めたのか、スタートラインでの雰囲気も先程とはいくぶん違うように見える。一部石田の様子を伺っていた運営スタッフの間にも社内の重要会議前のような緊張がみなぎった。
フラッグと共にヒート2がスタート! 石田は先程とは打って変わって抜群のミートで好スタートを決めると3番手で1コーナーを曲がっていく。本気を出せばこのレベルなんだよ! そう言われた気がした。ちなみにレース後に話を聞いたところ「2ヒート目はホールショット取ってやろうって思って頑張ったら、予想以上に前に出ちゃってビビったよ〜」と自分でも驚いていたようだ。かわいい。
結果は11位(14人中)総合は12位でレースを終えた。
これにてレースは終了。憑き物が取れた人みたいに穏やかな表情が戻ってきている。
今回、レース参戦に本気になりすぎ疑惑のあった石田に密着してみたが、終始「本気」で楽しそうに過ごしているのが印象的だった。レース前夜の食事時にも石田は「モトクロス好きなんだよね。みんなで競うことも好きだし、自分も速くなれた時が嬉しい」と話していて、業界を知るためだけではなく、自らバイクに跨ることでオフロードバイクの魅力を実感しているのだと感じた。そして、この人は単にレースに本気になり過ぎてるのではなく、経営でもレースでもお客様とのコミュニケーションでも、常に本気でしか取り組めないタイプの人なのだということがわかった。すっかりオフロード沼にハマっている石田。次の休日は何のレースに出るのだろうか。社長の挑戦はまだまだ続く。願わくばじゃんけん大会で勝ち抜ける日が来ませんように……。