ツーリング バイク

アドベンチャーバイク研究所 vol.2「日本が狭くなるアドベンチャーバイク? 1300kmを走破してきました」

最近の売れ線バイクと言えばアドベンチャーバイク。vol.1ではどんなアドベンチャーバイクがあるのか見ていきましたが、今回は長距離を実走してみましょう!!

 

ツアラー、アメリカンに続く第3のロングツアラー

長い距離を走るためのバイクというと、世代によってイメージが違うのではないでしょうか。1990年代だったらフルカウルのロードバイクにアップハンドルを装着した、いわゆる“ツアラー”。FJR1000やZZ-R1100などのロー&ロングスタイルかつ300km/hに迫るスピードが出るモデルが人気でした。レプリカバイクのイメージを残しつつ、ロングツーリングに仕立てたモデルといってもいいかもしれません。

 

2000年代にブームになったのはハーレーダビッドソンを中心とする“アメリカン”モデルでしょう。戦前から続く形ではあるものの、2000年代にハーレーダビッドソンがいちやく大ブームになったことで、ロングツーリングモデルの代名詞となりました。ホンダのゴールドウィングはアメリカンではないものの、同系統と言えるかもしれません。ともかくそのイメージソースは大陸横断を想起させるラグジュアリーなアイアンホース。

 

アドベンチャーバイクは、2010年代からブームがはじまった新たなロングツーリングモデルの主役です。他のジャンルと同様にアドベンチャーバイク自体の歴史は古いものの、近年はBMW 1200GSに端を発したブームが盛り上がりました。それ以降、オフロードのワイルドなイメージを持ちながら、ロングツーリングをこなせるモデルがこの10年ほど持てはやされています。そう考えてみると、ロングツアラーというのは常に「憧れをイメージソースに持った大排気量モデル」が選ばれているのかもしれません。ZZ-R1100、ハーレーダビッドソン・エレクトラグライド、アフリカツイン。この3つはかけ離れた存在に見えますが、実は時代にあわせて形を変えてきたロングツーリングモデルなのだと言えないこともないでしょう。長旅の象徴としてハーレーに好んで装着されていたレザーバッグは、アドベンチャーバイクのパニアケースに取って代わったのだと。

 

今、市場を賑わせているアドベンチャーバイクは、2020年代らしく電子制御をてんこもりにしてロングツーリングをかつてないほど快適にこなせるマシンに仕上がっています。今回は、あえてオフロードから離れてアドベンチャーバイクの「ロングツーリング」の適性をテストしてみたいと思います。

 

KTM 1290スーパーアドベンチャーSで1,200kmオーバーの旅に出る

編集部の前で記念写真。出発前なので、背景の汚さは許してください……。ウエアはDFG ウインターライドジャケットオフロードウインターライドパンツトレール をチョイス

今回チョイスしたのはKTMの1290スーパーアドベンチャーS。2002年のダカールラリーでファブリツィオ・メオーニがデビューウィンした950 RALLYをルーツに持つマシン。20年前から脈々と受け継がれてきたLC8エンジンは独特の脈動をもつ75度Vツインで、160馬力ものパワーを秘めています。いかにも乗りづらそうに聞こえますが、電子制御によってシチュエーションにあわせたキャラクターにセットアップできるため、素晴らしく乗りやすいと聞いています。

 

アドベンチャーバイクは様々な排気量・ブランドで発売されていて選び放題の2020年代ですが、ざっくりこのセグメントを説明すると、①リッターオーバーのフルサイズクラス、②700ccぐらいのミドルクラス、③250〜400ccくらいのエントリークラスに分かれており、またその中でも❶オフ指向(フロントタイヤ21インチ)、❷ロード指向(フロントタイヤ19や17インチ)に分かれます。今回選んだ1290スーパーアドベンチャーSは①❷でデカイロード指向のバイクです。オフ指向が欲しい人には1290スーパーアドベンチャーRというモンスターマシンがラインナップされています。

 

これは極めて個人的な意見ですがアドベンチャーバイクを買うなら、ほとんどの人には❷をオススメしたいです。特にリッター超えのマシンで日本のオフロードを楽しめる人は超少数派でしょう。リッター超えのマシンで入っていけるような綺麗な林道ならば、21インチでなくても19や17インチでゆっくり走破可能です。そしてアスファルト上では19や17インチのほうが圧倒的に走りやすく、長距離も楽ちん。乗り比べると別のジャンルのバイクなのでは? と思うほどに差があります。でもバイクってロマンの乗り物だから、そりゃ21インチが欲しいんだって気持ちもよくわかります、ハイ。ロマンに生きるあなたは迷わず1290スーパーアドベンチャーRをお買い上げしてください!

 

東京〜熊本間をひたすら走る

並の長距離ではその実力を推し量れないと言うことで、思い切って設定したのは東京〜熊本間のおおよそ1200km。だいたいみなさんの中で長目のツーリングといえば500kmくらいですよね? そこからだいぶ足を伸ばしてみました。もちろん1日で走破するわけではありません。島根県を中継地として、2日にわたって熊本を目指すという設定です。

緑いろのバッグが機材です。リモートワークできるようにPCなどなど満載です

 

今回メーカーからお借りしてきた車両にはフルでパニアケースが装着されていて、追加でバッグを用意する必要はありませんでした。鍵もかけられるため我々取材班にとって命の次に大事なカメラも安心して収納することができました。なお、フルパニアの容量だと1泊と言わず1週間くらいの着替えなどを備えて旅をすることができます。リッター超えのフルサイズアドベンチャーだと、パニアケースの重さもほとんど感じることがないので後ろの荷物のことを忘れてしまうほど。ロングツーリングで何度も荷物を落としてきた筆者としては、ふとした瞬間に「あれ? パニア落とした?」と振り返ってしまうことが度々ありました。

一番上にあげたまま全行程走破。ちょうしいいスクリーンでした

 

東京を出発したのはAM10:00。気温18度の暖かい秋の日でした。可変スクリーンをめいっぱい伸ばすとヘルメットにあたる風がだいぶ低減されます。このあたりはアドベンチャーバイクの車種によって防風性能が異なるところ。長くさらに角度が寝ているスクリーンが防風性能高めです。あまり設計がよくないモデルは、ヘルメットのまわりで風の渦がまいてしまい、ヘルメットが揺れてしまって疲れにつながる、なんてこともありますが1290スーパーアドベンチャーSの場合はほどよい防風効果でした。

当初選んでいたライディングモードは、標準的な「ストリート」。これがとても扱いやすくてモンスター級のLC8エンジンを操っているとは思えないほど。他にはロードで乗りやすくパワーもある「スポーツ」、穏やかな「レイン」、トルクを抑えめにダートで乗りやすく仕立てた「オフロード」、そして全解放したパワーモードの「ラリー」。エンジンの出力特性がこのモードによって設定されます。これにさらにスロットルレスポンスも、同じ5タイプが選べて組み合わせることができるのです。ラリーモードにスロットルレスポンスをラリーで組み合わせるとエンデューロバイクかと錯覚するほど過激になります。これはこれで面白くて、高速道路では5速なのにフロントがリフトしそうな勢い(もちろんそんな腕はないんだけど)で加速。3速だとちょっとした道路のうねりを使って飛べそうな勢いです。たぶんうまい人なら飛べる。さらにサスペンションも、電子制御されていて至れり尽くせり……。

 

さらにさらに! 実はこの1290スーパーアドベンチャーにはACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が搭載されているのです。四輪ではすでにおなじみの前走車を追従するクルコンですね。このモードにいれておけばスロットルだけでなくブレーキの制御までやってくれるので、ライダーはのほほんとハンドルに手を添えてコーナーにあわせて曲がっていればOK。この機能、バイクだとどんな感触なのか想像もつかなかったんですが、実際に使ってみると下りの自転車にずっと乗り続けているような感触なんです。それにいかに自分が無駄な操作をして体幹を使ってしまっていたのか、それによって疲労が生まれていたのかがよくわかります。アドベンチャーバイクはここまで来たか! と感動すら覚えました。

 

今回は観光を目的にしていないのでただひたすらほぼまっすぐ走ります。東名高速は工事中でひどい渋滞だったのですが、ここぞとばかりにACCを使いまくりました。エンジンが回りすぎたり、低回転になりすぎたらシフトペダルを蹴るだけ。オートシフター搭載なので、クラッチ操作すらいらないのです。これまでのバイクだったらこうはいきませんよね……。イライラもだいぶ抑えられます! 新東名に入ってからは最高速度120kmの区間でしっかりアドベンチャーらしさを堪能しました。120km/hが80km/hくらいのペースで走ったときのおだやかさが特筆モノ。楽ちんなことこの上なし! で、伊勢湾岸道を越えて新名神へ。

 

 

休憩はわずか1回。疲労感少ないアドベンチャーバイク

鈴鹿PAの展示。結構多くのドライバーが足をとめていました

 

今旅最初の休憩は鈴鹿PAに決定です。なぜならここには小川友幸選手、小島庸平選手が全日本トライアル・モトクロスを走ったマシンが展示されているからですね! レースの模様もプロジェクターに映し出されていてつい足をとめて見入ってしまうドライバー多し。この中部から関西を越えるのが意外と長いんですよねぇ……。

大活躍だったZETAタフロックスマートフォンマウント。iPhone12Pro(私物)を往復で2500kmマウントしたままでも何の故障もなかったですよ!

 

中国道に入ってからは車の台数もだいぶ減ってひたすら道との対話が始まるあたり、いよいよ本格的なロングツーリング感が出てきたなーと感じます。おっと言い忘れていましたが最近のアドベンチャーバイクはスマホとつながる機種がとても多くなっていて、この1290スーパーアドベンチャーSも例外ではありません。スマホーバイクが繋がり、さらにバイクーインカムが繋がります。ZETAのスマホホルダー「タフロックスマートフォンマウント」でスマホをマウントしておけば、ナビを見るだけでなく、音楽を聴いたりといろんな機能を使うことができるのです。今回の旅で多用したのは音楽プレイヤー。バイクについたマルチスイッチを使って曲選択や音量変更もできちゃう。誰にも聞こえないのでステッペンウルフ流しながら口ずさんでも恥ずかしくないんです。ボーン・トゥビーワーーーーイルド♪ これはドライブでは味わえない高揚感ですね。ぜひ奥田民生のイージュー・ライダーや、さすらいもあわせてプレイリストへスタンバっておくことをおすすめしたい。

 

広島から浜田道へ入って北上、1日目の中継地浜田市を目指します。浜田市は島根県の中でも広島から高速道路ですぐに行ける港町で、美しい夕日と海の幸が堪能できます。それと、九州方面へ向かう場合、浜田まで抜けておけばそのあと風光明媚な観光地である萩を通っていけるんですよ。なかなか山陰は立ち寄らず、関西〜九州といえば山陽・中国道をひた走る人が多いと思いますが、山陰への寄り道はオススメしたいルートです。浜田についたのは21:00。おおよそ11時間900km弱の旅程で休憩1回(ガソリン補給4回)。これはロングツーリングに適したバイクではなければ、ちょっとやる気にならないですねぇ。

浜田市の一部の名物、わさび菜寿司

熊本まではもう楽勝……! 日本が狭く感じる

浜田まで来てしまえば2日目は楽勝。だいぶ下道が多いのですが、距離にして400kmほどしかない(距離感覚がバグってきている……)のです。さすがアドベンチャーバイクと言うべきか、ほとんど疲労感はありません。これは休憩なしでいけるでしょう!! 出発は11:00。日が沈む頃に熊本までつけば十分でしょう。

浜田市はちょっと道の駅に立ち寄るだけでこの風景です

もし浜田に立ち寄ることがあったら、ぜひ赤てんを食べてください

とはいいつつも、なんとなくもったいないなと思いながら下関で関門海峡を眺めるためにバイクを降りました。ふぐの天ぷらを食べつつちょっと休憩。バイクツーリングでこういった海峡を渡るのは、北海道、四国などがありますが、本州〜九州がもっとも短く手軽です。なんせ、650mしかないんです。北九州から南下してさくっと熊本に18:00に着いちゃいました。正直ここまであっさり東京〜熊本間を移動出来るとは思っていなかったので、拍子抜けです。

筆者は学生の頃にはじめてロングツーリングをしました。そのときもやはり熊本に同じルートで向かったのですが、バイクはサイドスタンドがもげてしまっていたホンダCRM250R。12万円で買った中古のおんぼろ2ストトレールです。1日目は静岡、2日目は無理して浜田までたどりついたのですが、その時点ですでに疲労困憊でもう起きたくない、というほど疲労感があったのを思い出します。そのあと下関あたりで一泊して、熊本についたのはたしか4日目だったはず。日本はとてつもなく広いのだなぁ、と思ったものでした。でも、1290ccもあるアドベンチャーバイクで走ると、実にその日程は半分に圧縮され、疲労感もほとんどなく、日本は狭いなぁと考え直しました。なんせ熊本についてその次の日は、JNCCの取材をこなしたほどですから!

阿蘇の証拠写真……残念ながら晴れてませんでした

着いたらJNCCを取材するだけの余裕がありました。すごいロングツーリング適正です PHOTO/肘爆Photo

 

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アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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