バイク メンテナンス

2ストロークマシンはエンジンのこまめな腰上OHで維持費削減

2ストロークエンジンは4ストロークエンジンと比べてメンテナンスが容易。特に腰上と呼ばれるピストンやシリンダーだけでしたら、自分でも交換可能なんです。

レース用のマシンはトレールマシンと違い、頻繁にエンジンのメンテナンスをしなければいけません。エンジンのメンテナンスというと大袈裟に感じるかもしれませんが、正しい知識があれば自分で行うことも可能ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

埼玉県羽生市に店舗を構えるナグモータースさんのご厚意に甘え、解説していただきながら、編集部・伊井が初めてエンジンメンテナンスに挑戦してみました。バイクは自分の愛車、BETA RR2T200を使用します。何かあっても自己責任、ということで……!

納車していただいてから約1年半。デカールも変わってだいぶ乗りました。今回は腰上だけなのでエンジンは積んだまま行います。まずは作業を開始する前にバイクをしっかり洗車しましょう。

バイクの洗車には泥汚れに強いバイク用洗剤、Flat-LAB.のバイクウォッシュがオススメ!

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シリンダー内に土や砂が落ちないように
細心の注意を!

バイクが綺麗に洗車できたら、交換するパーツを用意します。これらは車種によって若干異なる場合がありますので、オーナーズマニュアルを確認してみてください。

ピストンリングだけ交換する場合に用意するべきパーツ

ピストンリング、ベースガスケット、メタルガスケット、各種Oリング類

ピストンを交換する場合に用意するべきパーツ

ピストン、ピストンピン、サークリップ×2、ピストンベアリング、ピストンリング、ベースガスケット、メタルガスケット、各種Oリング類

なお、ピストンやシリンダーはどうしても製造上誤差が生まれてしまうため、メーカーによって大きめ・小さめを用意している場合があります。BETAの場合はシリンダーにA・Bと書いてあり、それに応じたピストンをオーダーする必要があるので注意しましょう!

最初にタンクを下ろすため、燃料タンクのコックをオフにしてキャブレーターに繋がるホースを外します。

ホースに残っていたガソリンがちょっとだけ出てきますので、ウェスなどで受け止めましょう。

ホースを外したらあとはボルトを3つ外すとタンクが外れます。

さて、タンクを外すとフレームが見えるようになります。シリンダーを開けた状態で砂や泥がエンジン内に落ちてしまうと大変なので、ここでもう一度念入りに洗車を行います。いつも通りに水洗いしても大丈夫ですが、プラグが外れていないことは必ず確認してください。

フレームを綺麗にするのはもちろん、ハーネスをまとめているタイラップなども外して一本一本拭き上げ、汚れを落としていきます。なぜかというと、ハーネスとハーネスの間にはよく砂が挟まっていて、シリンダーを開けてる時にそれが落ちてエンジン内部に入り込むと大変なことになってしまうからです。

次にチャンバーを外します。こちらはフレームとチャンバーを留めているボルトを2本(写真の赤マル部)外して排気ポート部分のスプリングを外せば驚くほど簡単。

お次はラジエーターなのですが、まずはクーラントを抜き取っておきます。上の写真で指さしているドレンボルトを外せば、クーラントが抜けますよ。

ボルトを外しただけではちょろちょろとしかクーラントは出てきません。ボルトの次にラジエターキャップを外すとクーラントが勢いよく流れ出てくるので、器を用意しておきましょう。

クーラントが全部抜けたらホースとラジエーターを外します。

ラジエーターを外したら、写真の青マル部のボルトを緩めてエンジンマウントを取り外します。そしてプラグを抜きます。

いよいよシリンダーを外していくのですが、その前に排気バルブの装置(写真赤矢印)を開けます。

このように腰下からロッドが伸びています。このロッドが排気バルブのフラップに繋がっているため、これを外さなければシリンダーを外すことができません。

ロッドを固定しているピンをマイナスドライバーなどで外し、ロッドを外したらいよいよシリンダーを開けます。シリンダーを留めてるボルトを4つ緩めて……

今回はシリンダーヘッドは開けずにピストン交換のみということで、ガスケットを節約するためにシリンダーヘッドはつけたまま作業します。このとき、ピストンが下死点まで下がっていないとシリンダーを外すためのクリアランスがとれないのでキックペダルを操作してピストンを下げておきましょう。

シリンダーが外れたら、まずシリンダーの内壁をチェックします。もしシリンダー内壁に、指で触ってわかったり爪がひっかかるくらいの縦傷であれば、シリンダーも交換が必要です。また、シリンダー内壁にはオイルだまりのための細かい斜めの溝(ホーニング痕・クロスハッチ)が無数に掘られています。これが摩耗していると、潤滑性能が落ちてしまっていることになります。今回は幸いシリンダーには大きな問題はなさそうです。

この時、シリンダーをパーツクリーナーなどの溶剤とナイロン系のブラシでゴシゴシ清掃してあげます。なかなか洗えないところなのでしっかり汚れを落としておきましょう。

次にピストンをチェックします。こちらも表面の傷を見てみると……縦傷が……結構ありますね……。さらにテカテカしてる部分は擦れて摩耗してるところ。本来ピストンはオイル溜まりを作るために横方向の細かな溝加工がされているのですが、そこが滑らかになってしまってオイルが溜まりにくくなってしまっています。また、ピストンリングより下の黒くなっているところは、ピストンリングとシリンダーのクリアランスがあいてしまっている証拠で「吹き抜け」と言います。シリンダーの摩耗限界を探るためのひとつの目安にもなりますね。ピストンリングを変えたばかりなのに吹き抜けがひどければ、シリンダーの交換時期と考えましょう。

ちなみに新品はこちら。シリンダーと擦れる部分が黒くなっているのはモリブデンショットと呼ばれるコーティングで、潤滑性を上げて初期かじりを防止しています。BETA RR2T200のピストンは3万6600円。外車で、しかも少し特殊な排気量のため社外品も少なく、結構いいお値段ですが、例えばヤマハYZ125Xは7436円だったり。

また、ピストンを外したらクランクもチェックしておきましょう。シックネスゲージでコンロッドとクランクウェブの隙間を計測し、Betaの場合は0.39mm〜0.72mmの間であれば適正値です。手で横や縦に揺らしてみて、もしブレがあるようなら、これはクランクベアリングの交換時期です。

ピストン交換手順を解説

まずはピストンとコンロッドを接続しているピストンピンを外すため、プライヤーを使ってサークリップを抜きます。こちらは外した瞬間にどこかに飛んでいってしまうことが多いため、エンジン内部に落としてしまう最悪の事態を避けるためウェスなどを敷いて蓋をしておきましょう。サークリップはピストンピンの両側に入っていますが、片側だけ外せば反対側から指でピストンピンを押し出すことも可能です。ですが、車種やエンジン始動時間によっては硬くてなかなか抜けず、強引に押し出そうとしてコンロッドを曲げてしまう事態にも繋がります。

安全を期すためにはサークリップを両側とも外し、ピストンピンプーラーという特殊工具を使用することをオススメします。YZは比較的抜きやすいのですが、BETAの場合は硬くて指では抜けないことが多いのだそう。

取り外したピストンを改めて検証。やはりだいぶ傷ついてしまっていますね。ピストンをなるべく長持ちさせるためには、まずエアクリーナーのメンテナンスをしっかり行いましょう。また、ハードエンデューロなどでエンジンの冷却が間に合わず、クーラントが噴いてしまった状態で走ったりするとダメージが残りやすいとのこと。ちなみにYZ125は12.5時間でピストン交換、7.5時間でピストンリング交換がメーカーから推奨されています。BETAの場合はもう少しメンテサイクルが長く、ナグモータースさんでは「40時間くらいでチェックさせてもらって、ダメそうなら交換しています」とのこと。

古いピストンが外れたら、次は新しいピストンの取り付けです。まずは新品のピストンにサークリップを入れるのですが、この際にサークリップの先端でピストンを傷つけてしまわないようにしましょう。このとき必ず合口にサークリップの口を合わせないようにすることと、サークリップの口をピストンに対して横方向に組まないようにしましょう。エンジン稼働時にサークリップが外れる原因になります。外れてしまったら、腰上全部交換の憂き目に遭いますよ! また、サークリップの再利用もゼッタイにNG。

新品のサークリップにはバリがついていることがあるので、紙ヤスリなどで先端を丸くしてあげます。

さらにピストンも少し削ります。このように縁を削ってバリを無くしてあげることでシリンダーの縦傷を予防することができます。

ピストンピン、ベアリングは必ず新品に交換し、2ストロークオイルを塗布しておきましょう。

また、ピストンを組むときには向きに注意。矢印が指している方向(写真右方向)が排気側になります。IN、EXというように吸気・排気の方向が書いてある場合もあります。

ピストンを組みます。ピストンベアリングを入れておき、コンロッドに合わせておいてからピストンピンを圧入します。この時、ピストンベアリングには2stオイルを塗布しておきましょう。そのあと反対側のサークリップで蓋をして固定します。先ほどと同じように、ピストンの合口とサークリップの口を合わせないように組むことを忘れずに! 

ピストンを組んでから、シリンダーのガスケットがそのままなのに気づきました。危ない危ない。古いものを綺麗に剥がして新しいガスケットに交換します。

古いガスケットが綺麗に剥がれない時は、スクレーパーでクランクケースに傷をつけないよう丁寧に削ります。古いガスケットが残った状態で上から新しいガスケットを入れてしまうと密着度が損なわれてしまい、この隙間から圧縮が漏れてしまいますよ。大幅パワーダウン!

さらに潤滑油を塗ったオイルストーンで面出しをすれば完璧です。

新しいピストンリングも2ストオイルを塗布してギトギトに。

ピストンにピストンリングを入れます。YZ125などのモトクロッサーはフリクションロスを嫌ってピストンリングが1本ですが、耐久性が求められるエンデュランサーや2ストトレールバイクは2本あります。

ピストンリングの切り掛けの位置をピストンのピンにしっかり合わせないとシリンダーを入れる際にピストンリングが折れてしまうことがあるので注意。

新しいガスケットを入れて、ピストン全体とガスケットに2ストオイルを塗布したらいよいよシリンダーを入れていきます。シリンダーを外した時と同じくピストンを下げてから作業を始めましょう。

写真のようにピストンリングを指で押し込みながらシリンダーを入れていきます。2本のピストンリングの位置を合わせた状態で押し込むのがかなり難しく、コツが要ります。しかも上手く入らずに何度もやり直しているうちにシリンダーやピストンを傷つけてしまうリスクがあるので、十分に注意しながら作業を行いましょう。

できました!

ここでシリンダーとクランクケースの位置を精密に合わせるためにセンター出しを行います。シリンダーを手で抑えた状態でキックペダルを何度か上下させ、ピストンを動かしてあげましょう。これでシリンダーが正しい位置に収まったので、シリンダーのナットを締めます。対角線上のボルトから締めることでゆがまないように注意。

エンジンマウントは、実はとても車体剛性に大きく関わる部分。ここもトルク管理をしっかりしましょう。Betaの場合は35Nmに設定されています。

排気デバイスの室内は、チャンバーになっているためガスケットがとても大事です。ここも一度外したら新品に交換したいですね。なお、ゴム部分には液体ガスケットを使用します。

しっかりエンジンを組み終えてラジエターを戻したら、クーラントを入れましょう。エンジン内の通路を空にしたこともあって普段のクーラント交換よりもエアを噛みやすくなっています。クーラントが満タンになったあとにエンジンを始動することでウォーターポンプがまわり、水路のエア噛みを除去してくれます。そしてクーラントが目減りした分、継ぎ足せば、作業完了です!

このように、2ストロークのエンジンは特別な設備などがなくてもサンデーメンテでピストン交換をすることができ、寿命を伸ばすことができます。YZだったらピストン、ピストンピン、ガスケットでなんとパーツ代は1万円以下。とはいえ、バイクの中でも特に精密な作業が求められるエンジン部分なので、少しでも不安な人は信頼できるショップに頼むようにしましょう。

 

 

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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