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ダートフリークのプロダクト史〜ZETAハンドルバーはいかにして強靱になったか〜

2023年現在、ヤマハのファクトリーチームにも採用されているZETA製ハンドルバーはその性能と信頼性の高さから、世界でも有数のハンドルバーに進化しています。その進化の過程を開発部のM氏と共に振り返ってみましょう

アルミ製ハンドルへ換装することは、レーサーカスタムの第一歩だった。黒歴史を乗り越えていく開発陣

ライドハック編集部(以下、編):そもそもZETAブランドのはじまりは、どこにあったのでしょうか?

 

M氏:僕が入社した00年より前からZETAブランドはすでにあったのですが、最初は手で触る部分のアフターパーツを作っていこう、というのがコンセプトだったと聞いています。ライダーが手で触れるパーツの中でもハンドルは最も重要な部品ですから、まずはハンドルを生産しようという流れになるのは自然なことでした。

 

今ではどの車両メーカーのレーサーもアルミ製のテーパーハンドルが純正で装着されていますが、当時はモトクロッサーの純正ハンドルが22.2mm径の鉄製だった。バイクを買うとまずこの純正ハンドルをアルミ製ハンドルに変えるのがモトクロッサーカスタムの定番でもありましたね。操作性が上がり、軽量化にも繋がる。鉄よりも曲がりづらいというのもポイントです。付加価値が高かったんですね。最も初期のZETAハンドルはダートフリークの前社長である諸橋さんが自ら図面を引いて、台湾に生産を依頼したものでした。

 

その最初期のハンドルバーは材料をアルミ合金の7075番にしていたのですが、焼き入れ工程の問題なのか硬くなりすぎて折れてしまう傾向がありました。まだまだ問題が山積みでしたね。

 

編:どうやってその問題を解決したのですか?

 

M氏:社内的にその初期ZETAハンドルを改善しようという時に、ちょうど僕が入社してハンドルの担当になりました。当時は他社がやっていないことをやろう、という気概にあふれていました。生産は先見性を持って台湾から中国へ移管し、さらに新ハンドルのアイデアとして出てきたリブドバーにも着手し始めていました。内部断面にリブをつくることで強度を確保し、さらにはアルミ材を減らすことで軽量化をするという目論見でした。デザインやアイデア自体はすごくよかったのですが、やはりこのハンドルも強度の問題で苦労しましたよ。

材料は2014番のアルミを使用していました。初期の硬くて折れやすい性質から、今度は柔らかくなり過ぎてしまったんですね。プロライダーにテストしてもらうと乗り味はとても好評でしたが、市場に出してみると転倒時に曲がってしまう。「ZETAのハンドルは折れる」という悪評判が立ってしまいました。実際には折れずに曲がってしまう、というのが正しかったんですけどね。

 

開発はそこからリスタート、改めて注目したのは素材でした。そもそも7000系のアルミというのは、ハンドルの素材として悪いものではなかったんです。しっかり焼き入れ工程を管理することで、初期の問題も解決できるはず。そこで我々は最初に立ち戻って7075番のアルミを使って、折れにくく、強度としなりを両立させた新たなハンドルの開発に乗り出したのです。

 

トレール用に進化したCOMPハンドルバー。22.2mm径の歴史

 

編:それがこのCOMP・CXハンドルなんですね。

M氏:その通りです。新生ZETAのハンドルとして、レース用のCXハンドルとトレールバイク用のCOMPハンドルの2種類をリリースしました。競技指向のCXバーはここでほぼ完成形になりましたね。当時、ハイエンドモデルだったCXハンドルが7075番を使用した一方で、強度よりもしなりを重視したCOMPハンドルは材料に6061番のアルミ合金を採用しました。

 

COMPというのはコンペティションの略で、CXはCOMP-Xの略です。この頃にはモトクロッサーの純正ハンドルはアルミに置き換わっていましたが、トレールバイクはご存じの通り現在に至るまでずっと鉄ハンドルが純正になっています。COMPバーはトレール向けにコンペティション色を付加するために作られたレーサーテイストのハンドルなのです。ですから、ベンドもレーサーのような設定の商品がラインナップされています。トレールでスポーツ走行したいという層は多く、大変好評を得ました。

 

 

編:両方とも定番商品としてラインナップされてますが、今後変わっていくことはあるのでしょうか?

 

M氏:競技志向のCXハンドルはこの時点で無駄のないものとして完成しているのですが、COMPハンドルはそれだけではダメだと言うことでさらに進化を遂げています。ツーリング向けにバーエンド付きのエクスプローラーハンドルバーを開発したり、ボルトオンでハンドル換装できるコンプリートハンドルバーを発売しています。

最近発売されたコンプリートハンドルバーは、ZETAで好評のアーマーハンドガードもアンカーなしで装着することが可能です。DIYが苦手な若いライダーの方でも自分でカスタマイズできるようになっています。

テーパー型SX3ハンドルバーの誕生秘話

 

編:なるほど、現在22.2mmのハンドルバーは、COMP、CX、エクスプローラー、コンプリートの4品番がリリースされているわけですね。

では、テーパー型のハンドルバーについてはどういった歴史があるのでしょうか?

M氏:先ほどお話ししていたリブドバーですが、テーパー形状の商品も作っていました。レーサーに装着される事例が多いこともあって、やはり曲がってしまうという話がありました。CXの時と同様、強くてしなりがあって折れないテーパーバーを作ることになったわけですね。

 

新しく開発したSX3ハンドルバーは、CXと同様に7075材を使用しています。曲がらない、折れないハンドルを作るポイントは、やはり材質と焼き入れ加工の管理方法でした。温度や時間、冷却時間の管理です。苦労した点は、どちらかというと設計のほうにあります。その頃はひたすら純正のハンドルや、社外のハンドルの寸法を測っていましたね。ライダーとのコミュニケーションをとりながら、新しいベンドを作ることもありました。最近で言うと野崎史高選手はとてもこだわりの強いライダーでした。トライアルコンペティション1というベンドを作り込んだのですが、時代が変わってこの形状ではもう古いということになって、トライアルコンペティション2をリリースしました。

編:ハイエンドモデルのSX3ハンドルバーは全日本モトクロスでもたくさん使われていますね。

 

M氏:ありがたいことですね。ただし、このままでは面白くないのでさらにプレミアムな最上級ハンドルを計画中です。トレール向けの商品展開が充実してきていますが、やはりモトクロスは我々の核ですから。今のレーサーは最初からレンサルのテーパーバーが標準で装備されています。だから各アフターパーツメーカーは、テーパーバーにブレースを組み合わせたり、さらに太い36mm径のテーパーバーを発売したりしている。ZETAはよそとは違う新しいアプローチで面白い商品を出せないか開発中です。新作にもぜひご期待いただきたいです。

 

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アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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