ライダーにとって大事な「視界」。雨や泥によって視界が狭まるマディコンディション走行時の対策はどうすれば良いのでしょうか?
そもそもマディコンディションとは?
オフロードバイクは土でできたコースを走る競技。雨が降ると路面はぬかるみ、コンディションは”ドライ”から”マディ”へと変化します。晴れの日と比べると、泥がつくことでマシンが重くなったり、雨や飛んできた泥がゴーグルのレンズにつくことで視界が一気に悪くなるなど、かなり走りにくい状況となります。練習では雨の日を避ければ良いのですが、レースとなると天候関係なく行われるため、否が応でも走らざるを得ません。そんなマディコンディションを少しでも速く、快適に走れるようにとライダーたちは対策を研究し、それぞれの対策を行っています。マシン、ヘルメット、ウエアなど対策の範囲は幅広いですが、中でも重要なのがゴーグルの対策です。
ライダーは視界が命
ライダーにとって一番致命的なことは視界を奪われることです。他のライダーと一緒に走るモトクロスでは、前を走るバイクから飛んでくる泥がレンズにつき、路面状況を確認することができなくなるということも多々起きます。特に速さを競うレースでは、前が見えなくなってスピードが落ちた瞬間に他のライダーに抜かされるということも多く、順位にも影響が及びます。
実際に、大荒れのマディコンディションとなった2024 D.I.D全日本モトクロス選手権第3戦で初優勝を飾った#2大倉由揮選手は、スタート時にかかる泥対策としてプラスチックの板をヘルメットに装着する徹底ぶりを見せました。さらに、優勝インタビューで「ゴーグルを最後まで外さずに走りきれた」と、マディ対策を共に行なったチームスタッフに感謝を述べています。このことからも、視界がいかに大切かが伝わってきます。
では、どのように対策をすれば良いのでしょうか。今回はゴーグルのマディ対策「ティアオフ」と「ロールオフ」を紹介していきます。
ティアオフ or ロールオフ、視界を守る2種類のフィルム
ゴーグルのマディ対策は主に”フィルム”を使用します。重ねることでレンズ自体に泥がつくのを防ぎ、泥が付着したらフィルムを剥がしていくことで視界をクリアに保つことができます。種類としては、1枚のフィルムを重ねて装着する「ティアオフ」と、1枚の長いフィルムを巻き取っていく「ロールオフ」の2つがあります。
ティアオフは安くて取り付けが簡単なのが特徴です。しかし、フィルムの間に泥が入ってしまったり、1枚ずつ剥がしたいところを複数枚いっぺんに剥がしてしまうというミスが起きやすいため、注意が必要です。
一方、ロールオフはリールを引っ張ることでフィルムを巻き取る構造です。そのため、ティアオフのように複数枚同時に剥がしてしまうという心配はありません。また、山の中など自然環境を生かしたコースを走るエンデューロのレースでは、環境保護のためにフィルムを捨てないロールオフの使用が義務付けられています。
使用方法
ティアオフとロールオフ、その使用感や仕組みは全く異なります。今回はSCOTTの製品を使用し、使用方法や使用感の違いを見ていきましょう。
取り付け簡単、枚数調整可能なティアオフ
SCOTTのティアオフは、「スコット ワークス プロスタック ティアオフ(7枚x2セット) プロスペクト/フューリー」と「スコット ワークス ティアオフ(20枚入り) プロスペクト/フューリー」とラミネートタイプが2種類あります。前者は超薄型フィルム7枚を1セットに接着し、フィルム1枚と同じくらいのクリアな視界を確保しています。一方後者はフィルムが1枚ごとに分かれており、自分の好きな枚数を取り付けることができます。
取り付け方はゴーグルについている突起にフィルムをはめるだけと簡単。1セット20枚入っているティアオフは、路面状況に合わせて枚数を調整することができます。また、超薄型フィルムのプロスタックティアオフは全日本ライダーも使用しており、IA1クラスを走る大倉選手に聞くと3セットを使用し合計21枚を重ねているとのこと。
なお、1枚ごとに装着するティアオフは大体10枚ほどつけたあたりでフィルムの重なり具合が視界の透明度にも現れてきました。20枚以上使用かつクリアな視界を求めるライダーはプロスタックティアオフをおすすめします。
ティアオフをそのまま取り付けると、引っ張る部分が重なり、走行中に剥がしにくくなったり、複数枚外してしまう原因にも繋がります。一枚ずつ剥がすために持ち手を丸めておくと良いでしょう。
実際の使用感はこんな感じ。ティアオフを外す時にはハンドルから片手を離す必要があるため、モトクロスではマシンが安定しているストレートか、ジャンプを飛んでいる空中で剥がすライダーがほとんどです。
リールを引っ張るだけで視界をクリアにできるロールオフ
SCOTTにはロールオフも揃っています。今回使用するのはSCOTT フューリーゴーグル。フィルムを巻き取るキャニスターをセットしてロールオフゴーグルとして使用。フィルムを左側のキャニスターに取り付け、リールを引っ張ることでロールが巻き取られる仕組みです。
こちら正しい付け方動画!
ロールオフのセッティングで注意したいのが、(マッドバイザー)ロールオフバイザーを必ず装着しましょう。フィルムに重なるように貼り付けることで、フィルムとレンズの隙間に泥や水が入りにくくなります。稀にロールオフバイザーの上にフィルムが載ってしまっている方を見かけますので、走行前にチェックしておきましょう
また、レンズはロールオフ専用のSCOTT アンチスティック ダブル レンズを使用。ロールオフフィルムが張り付かないように表面にドット加工が施されているのが特徴です。さらに、レンズは2層になっており、外気とゴーグル内側の温度差をなくすことで走行時に曇りにくくなっています。
実際に使用してみると、フィルム全面に泥がついているにも関わらず、巻き取られて視界が良好になっていく様子がわかります。なお、稀にフィルムとレンズの間に泥が入ってしまうこともあるでしょう。その場合はどれだけ巻き取っても泥が薄く広がってしまうため視界はクリアになりません。対処方法としては、フィルムを前に引っ張りヘルメットのバイザーにかける、またはゴーグルを外すことをおすすめします。
このように、ティアオフとロールオフは使用感が全く異なるため好みは分かれます。実際に試し、自分にあった対策を行なってみてください。
トップライダーの対策は?
今回記事を書くにあたり、ダートフリークのサポートライダーである#2大倉由揮選手、#11福村鎌選手、小島庸平選手にインタビューをしました。全日本モトクロス選手権で戦うトップライダーたちはどのように対策をしているのでしょうか。
大荒れのマディで優勝を獲得した、#2大倉由揮選手
大倉選手はマディコンディションとなった2024D.I.D全日本モトクロス選手権第3戦で初優勝を獲得しました。この結果にはマディ対策も反映されているはず! と思いお話を聞きました。
「僕は今までずっとティアオフを使ってきています。一度ロールオフを使用してレースに出たことがあるのですが、その時に壊れてフィルムが剥がせなくなってしまったことがトラウマになり、いつもティアオフを使用しています。ただ、イタリアの選手権に参戦した時にはティアオフの使用がルール上禁止されていたためロールオフを使用しました。その時は何事もなく使えたのですが、選べるのなら慣れているティアオフを好んで使いますね。
レースの時は、7枚1セットになっているラミネートティアオフを使用していて、これを3つ重ねています。つまりフィルムの合計枚数は21枚ですね。使用する際は何枚剥がしたかも正確に数えるようにしています。あと少しでなくなる……となると精神的にも余裕がなくなるので、使い切らないように計算しながら慎重に外しています。また、ティアオフを外すタイミングにもかなり気を遣っています。走っている途中でティアオフを使い切ると、レンズに泥がつき、最悪の場合ゴーグルを外して走ることになります。泥が目に入ると痛いですし、前も見えなくなるので極力外したくないんです。なので、特に前半は粘りますね。泥がついても手で拭いて、限界まで使い倒しています(笑)」(大倉)
マディのお約束
このように、マディコンディションを走る際には、視界をクリアに保つためのゴーグル対策が重要です。トップライダーたちの使用方法をぜひ参考にしつつ、ティアオフとロールオフの特徴を生かしたマディ対策を試してみてください。
緊急時でも、ゴーグルを外してしまい走行すると失明のリスクがあります。やむを得ない場合も起きてしまうのがオフロード走行。それでも、NOゴーグル走行はいかなる時でも推奨いたしません。