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呼び名は「ゲンさん」!? 開発中の電動バイク「GE-N3」について担当者に聞く

名古屋モーターサイクルショーのダートフリークブースで初お披露目された電動バイク「GE-N3」。愛らしいルックスで注目を集めましたが、基本スペック以外の情報が少なく「どんなバイクなの?」と疑問に思っている人もいるかもしれません。そこで、このマシンの開発担当である電動バイクグループの伊藤隆文さんに、開発の背景や狙いなどを聞いてみました。

大人向けの原付一種として開発

区分としては原付一種と発表されている「GE-N3」。どんな経緯で開発が始まったのか? なぜこのカテゴリーとしたのでしょうか? 

「開発が始まったのは2022年頃でした。ヨツバモトWOOFのちょっと大きいもの、大人が乗れるものを作ろうというコンセプトでした。原付一種としたのは、より多くの人に乗ってもらいたいと考えたからです。普通免許で乗ることができるので、かなり多くの人が乗れることになります。原付二種だと免許の取得がハードルになりますし、ABSやコンビブレーキを備える必要もありますが、ブレーキなどに自転車用のパーツを使っているのでABSなどの搭載が難しいという事情もありました。電動モビリティではスピードや航続距離を求めると、どんどん高額になってしまう為、今回は、速度域が低くでも楽しめる原付トレールというカテゴリーに着目しました」

「GE-N3という車名ですが、僕らは”ゲンさん”と呼んでいます。原付の”ゲン”と、最高出力3kWから取ったものですが、皆さんにも親しみを込めてそう呼んでいただければうれしいです」

”カセットテープのような”デザイン

WOOFの発展型とのことですが、デザインの方向性はだいぶ異なるように見えます。こうしたデザインとした狙いは何だったのか聞いてみました。


「当初はWOOFを大きくしたようなデザインで考えていたのですが、自分が手慣れでデザインしてしまうと、どうしても普通のオフ車っぽくなってしまうんです。既視感もあるし、原付にふさわしい愛嬌というか、雰囲気が出ない。悩んでいると、隣の席の女性上司から『思い切ってシートの下端線を水平にしたら?』と言われまして、それは無いだろう、と思いつつも作画したところ『アリかも』と、感じ、そこから今のデザインになるまでは速かったです。水平垂直の直線をできるだけ取り入れつつ、平和で親しみを持ってもらえるデザインを目指しました。結果的にカセットテープのような、アナログ味のあるルックスにできたと思います。鳥山明さん(ダートフリークのある愛知県の出身なんですよ)のマンガに出てきそうなバイク、と言われたり」

「サイズ感としては、昔あったホンダのCRM50が近いです。ホイールサイズはフロント17インチ、リア14インチで初心者がオフロードで乗っても足付きが良くて不安を感じにくいはずです。昔、CRM50でTBI(ツールドブルーアイランド)を走ったことがあるのですが、それがすごく楽しかったんですよ。この車格だと、ちょっとした林道がチャレンジングな感じになって面白い。試作車に関しては、クリアランスを大きく取っているので、フロント19、リア16インチのホイールも装着可能ですが、見た目がちょっと立派になりすぎて『原付感』が薄れたため、今のホイールサイズに落ち着きました。外観はヨツバモトMeowやWOOFのテイストとだいぶ違うように見えるかもしれませんが、フレーム構成、スリムでコンパクト、オフロードに適したポジション、ライダーの体重とほぼ同じ車体重量、といった基本的な思想は引き継いでいるつもりです」

珍しい72Vのバッテリーを採用

定格出力は原付一種の上限である600W、最高出力は3000W(3kW)。ユニークなのはバッテリーで、72V 24Ahと高めの電圧(V=ボルト)とされています。このクラスの電動バイクは48Vや60Vが多い中、この電圧を採用した理由は何だったのでしょうか?

「価格を抑えたかったのと性能のバランスで選択しました。電動バイクの出力(W=ワット)は電圧と電流(A=アンペア)の乗算で決まります。テスト車両では、結構色々な組み合わせを試したのですが、『低電圧×高電流』よりも『高電圧×低電流』のほうがフィーリングも燃費(電費?)も良かったんですね。平地だと60Vくらいでも十分に感じるのですが、上り坂だと72Vのほうがトルク感がある。あくまで例えですが、同じ馬力でも小排気量車を高回転まで回すのと、大排気量車を低回転で動かすのではフィーリングが違うのと近い感覚です」

「また、大きな電流を取り出せるバッテリーは高価になってしまうという事情もあり、それならば取り出せる電流は低い普及グレードのバッテリーの電圧が高いものの方が安上がりだった為、こちらを選択しました。スポーツ指向が強い電動バイク用のバッテリーを選べばもっと小型で軽量なものもありますが、車両コンセプト的には今のもので十分と判断しました。よく聞かれる走行距離ですが、実測値ではだいたい60kmくらいです。」

”DFシャチョーがミニバイぱにっくを走れる”オフロード性能

ダートフリークが手掛けるマシンだけあって、オフロード性能もきちんと確保されています。車重は60kgと軽量で、タイヤクリアランスが大きいので、モトクロスタイヤも装着可能。モーター出力もダートでトラクションしやすい特性にコントロールされているとのことです。

「モーターは回転し始めから最大トルクが発揮できるので、急にパワーが立ち上がるような特性のマシンもあります。舗装路のみならそれも楽しいでしょうが、GE-N3の場合は未舗装路でもタイヤが滑らないように立ち上がりは穏やかになるようなセッティングにしています。パワーは大きくないのでモトクロスコースでジャンプするような走りには不向きですが、フロントアップやジャックナイフ、丸太越えみたいなアクションは得意。性能的には、うちの社長(ホビーライダーとして各地のレースに出没しているDFシャチョー)がハードエンデューロの”ミニバイぱにっく”の120分クラスで1周できることを目標にしています。たぶん、そのレベルには達しているのではないかと思います。初期の試作車ではミニバイぱにっくを意識しすぎて前輪にもモーターを仕込んだ2輪駆動仕様なんかも作っちゃいましたが、用途がさすがにニッチすぎるので商品化には至りませんでした。」

「公道では55km/hでリミッターが効くようにしていますが、リアのランプユニットを取り外して公道を走行できない状態『パークモード』にすれば、クローズドコースで、もう少しだけパワフルでスロットルレスポンスが鋭い走りが楽しめるようにしています。ステップの位置も、4種類から選べるようになっていて、街乗りなどリラックスしたポジションにしたいときは前方に、オフロードやトライアル的なポジションを取りたいときは後方に配置できるようにしました。シフトやリアブレーキなどのレバーがいらない電動だからこそのギミックですね。リアショックの取り付け位置を変更できるようにしてあって、最低地上高やキャスター角も調整できます」

オフロード遊びの裾野を広げる乗り物に

原付一種の電動バイクというと、コミューター的なモデルが多いですが「GE-N3」はオフロードマシンとしての作り込みがされています。最後に、このサイズの電動オフローダーが持つ魅力と可能性について聞いてみました。

「実際にオフロードを走ってみると、シフトやクラッチの操作がいらないし、エンストの心配もないので、初心者がオフロード遊びを楽しむには絶好の入口になってくれそうです。小さくて軽いのでベテランのみなさんにとっても新しいテクニックの練習なんかにオススメです。チェーンの音が聞こえるくらい静かなので、より自然を味わえる乗り物だとも思います。普段は街乗りに使いながら、週末にはクルマに積んでキャンプや釣りの足などに連れ出したり、オフロード遊びの裾野を広げる可能性を持っていると思います。このマシンが、新しい仲間を連れてきてくれたらいいなと考えています」

「こういう作り込みができたのも、我々が小規模でフットワークの効くメーカーであることと、ヨツバモトを作り始めたときから一緒にやっていて、”一緒に作る”という気持ちで細かいオーダーに応えてくれる工場と組むことができたことが大きいですね。大きなメーカーだと、こんな小さいニーズの乗り物は(企画台数的に)作れないでしょうから。面白いものを作るには、ちょうどいい規模のメーカーだと言えるかもしれません」

”ゲンさん”の価格や発売時期の詳細は未定ですが、税込みで44万円程度(円安がこれ以上進むと難しいかも…)で今年秋頃の発売を目指しています。新しい情報があれば、ここや公式HPでお伝えしていく予定ですので、ぜひチェックしてください。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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