オフロードバイクはクラッチレバーの操作性がとても大事。実は、クラッチレバーを変えることで軽さを手に入れることができるのです
軽さか? キレか?
オートバイのクラッチは、エンジンの動力をタイヤに伝えるもの。だからこそ大排気量のバイクになればなるほど、動力を繋げる力が強くなります。動力を繋げる力は、クラッチのフリクションプレートの枚数や、クラッチシステムの精度など様々な要因で強化できるのですが、根本的にはプレートを合わせるスプリングの強さ。そして、このスプリングの強さはどうあってもレバー操作の軽さに関わってくるのです。そんな訳なので、オフロードバイクの中でも最強とされる450ccレーサー達のクラッチレバーは、決して軽くはありません。
ライドハック編集部では、今シーズンはヤマハのYZ450FXに乗っているのですが、こちらのクラッチはお世辞にも軽いとは言えない重さ。しっかり整備がされていても、じわっと重い。このくらいなら耐えられるかもと当初は思っていたのですが、10分くらいしっかり乗り込んでいると手指が相当疲労してしまい、冗談抜きでもうクラッチを握れなくなってしまう。さらには、1日しっかり乗り込むとバネ指と呼ばれる症状が出てきてしまいました。左手だけ指がむくんでしまって、これは相当重いんだなと思い知らされたわけです。ぱっと握った感触では、ここまで深刻だとは思っていませんでした。解決方法としては、クラッチを使いすぎる下手な乗り手のスキルを向上するという手もあります! でも、そんなの待ってられない。バネ指が進行してしまう!!
そこで目を付けたのが、ZETA RACINGのウルトラライトクラッチパーチ。通常クラッチレバー自体はてこの原理によってワイヤーを引いているのですが、このてこの比率を変えることでレバーを軽くするパーチなのです。できれば、YZ250FXくらい軽いクラッチに仕上げたい。
もちろんノーマルから変更する以上、メリットがあるからにはデメリットもあります。てこの比率を変えることで、クラッチレバーの「動きしろ」が変わってしまうんですね。クラッチはフリーの部分>半クラッチ>つながる部分とおおまかに3段階に分かれるわけですが、クラッチをてこによって軽くするとこの半クラッチの部分が長く間延びしてしまうのです。いわば、クラッチの「キレ」が少しずつ失われていくわけで、クラッチレバーの「軽さ」と「キレ」はトレードオフの関係にあると言えるでしょう。
ZETA RACING
ウルトラライトクラッチパーチ
ZE43-5001
¥10,780(¥9,800)
※ミラーホール付き(ZE43-5011)は¥12,100(¥11,000)
最弱はかなり扱いづらい
というわけで、実際このウルトラライトクラッチパーチを使うことで、どんなセッティング幅があるのかをお伝えしたいと思います。このタイコホルダーがミソで、タイコホルダーの取り付け方によって軽さとキレが変わる仕組みです。
4段階のセッティングができるようになっているので、好みの位置を探ってみましょう。
おおよそ普通のバイクは、この表のようにレバー比2.7〜3.7くらいで収まっているのですが、それをさらに4.5まで動かせてしまうという優れものですね。レバー自体の精度が高いので、このパーチを取り付けるだけでもだいぶ軽い握り心地になります。「ほんの少し軽くしたい」という人であれば、①で十分かもしれません。
まずはものは試しということでレバー比4.5の④でいってみましょう! 握ってみると、あれだけ重く感じたYZ450FXのクラッチレバーが相当軽くなっていることがすぐにわかります。これは期待大ですね。言うなれば、125ccくらいの小型トレールバイクのような軽さです!! ですが、走ってみるとこれはやりすぎ感が否めませんでした……。キレがなくなるというのは、こういうことなのか、と。主に気になったのは、半クラッチからのリリースです。自分でもあまり気づいていなかったことなのですが、どうやら半クラッチから一気にクラッチを繋いで立ち上がりの急峻なパワーを使うことが多いようなのです。これが、キレが極端に悪くなるとパワーがぱっとつながってくれず、加速のタイミングが鈍くなってしまう。タイムにはあらわれない些細なものなのですが、なにより気持ちいい450ccの加速が鈍ってしまうのが気になります。ただ、ホントにすごく軽くなるので、軽さ重視の人はこれで満足するはず。
レバー比4.0の③は、かなりそのキレの鈍さが改善されました。軽さも十分なので、ここはひとつ採用候補にしたいところです。であればもう少しキレを取り戻すための②はどうなのか……というと、キレは純正とほぼ遜色ないところまで回復。ただ、クラッチの軽さはたしかに違うものの、まだだいぶ重いなという感触があります。実際、②は有力候補なのでしっかり走り込んでみると、純正よりは疲れないものの、やはり15分ほどで指の握力を使い切ってしまう感がありますね。①だと、純正同等といった感触です。前述した通り、パーツとしての精度がいいぶん若干ながら軽さを感じるので、元々軽いクラッチであれば①でも十分事足りるでしょう。
結果的に編集部で選んだのは③の位置。③であれば30分走り込んでも指の握力はそのままで、YZ250FXよりも少し重く感じるもののキレもそこまで失わず、ベストな位置を見つけることが出来ました。走るシチュエーションによっては、タイコの位置を入れ替えてレバー比を変えて乗ってもいいかもしれません。
車種を選ばず装着できるのがうれしい
実はこのウルトラライトクラッチパーチ、レーサーのみならずトレールにも装着できるところがナイス。セロー250やCRF250Lはレーサーに慣れているライダーであれば、そこまで重さは感じません。しかし、女性や手の小さい人はもう少し軽くしたいと感じる方もいらっしゃるはずですよね。
セローの場合はトライアル遊びをするライダーも多く、そういった場合はクラッチのキレがとても大事になるのであまりおすすめできないかもしれませんが、ツーリング向けであればキレはあまり気にならないもの。キレは二の次、クラッチの軽さをとにかく重視したいというライダーにはぜひオススメしたいところです。
また、こちらのウルトラライトクラッチパーチではなく、全面ビレットアルミ製のピボットパーチをチョイスするのもありです。こちらもレバー比を2タイプから選ぶことができ、ウルトラライトクラッチパーチほどではないのですが、クラッチを軽くすることが出来ます。また、ウルトラライトクラッチパーチの場合は対応するピボットレバーが無いため、レバー破損のリスクはハンドガードなどで対処する必要があります。お好みの方を、選びましょう!!