瀬戸市

瀬戸で生み出された、ほっこりするニットのようなカップ

瀬戸でたくさん陶器がつくられてきた歴史があるから、陶器のことは「せともの」と呼ばれています。そのくらい、瀬戸市の歴史は、陶器と切って離せぬもの。ところが、この陶器という民芸品は、マスプロダクトに進化を遂げていく過程で、どんどんコストを削減してきました。ご存じの通り、いまや陶器は100円ショップにも並ぶほど廉価な製品になっています。家にある陶器、どんなものがありますか? たまには、手びねりの茶碗とまではいかずとも、瀬戸で生み出されたコンセプティブなカップでも使ってみてはいかがでしょう。

Trace Face
Knit Wear
2,420円(税込)

その質感、まるでニット。こんなに柔らかい瀬戸物をはじめて見た

ニットを巻いたコップ…ではありません。まさに陶器そのものなんですが、本当にニットのような表情ですよね。そのほんわかしたニットの風合いは、インスタグラムを通じて全国に拡散。「瀬戸もの」の異例のヒットとなったとのことです。

「焼き物って固いじゃないですか。どうやったら柔らかいものとして表現できるか、企画者のセメントプロデュースさんが考えたそうです。それで、ニット柄を思いついたということのようですね」と瀬戸の型業エムエムヨシハシの吉橋さんは語ってくれました。通常は、専用の絵付け絵の具で模様をいれていきますが、そうではなく型を彫り込むことで模様を表現するというコンセプトです。

昭和34年、吉橋成形所が吉橋さんの祖父の手によって開業。2代目にあたる父の仕事を傍らで見ながら、学生時代には専門学校でアパレルの分野へ。ニットがハマったのは、そんな吉橋さんの出自も関係しているのかもしれません。

これが、型。石膏でできていて、吉橋さんはこれを作る職人であり、会社の代表です。

ろくろで、まず雄型をつくります。これができるようになるまで半年だそう。

型を作る、というと大量生産・消費社会を想像するかもしれませんが、こうやって石膏をすこしずつ彫り込んでいき、緻密な模様を作り出しています。

最終的にできあがった型。2分割でキレイに抜けることがポイントです。また、型を抑える外の型との整合性もあわなくてはいけないし、石膏なので乾けば寸法が変わる、そんな中でぴったりした型を作っていくわけですから、これは職人のなせるワザですよね。

「ニットをやってみようよ、って言われたときに、ニットはないだろう…って思ったんですよね。ニットと焼き物があうなんて感覚がなくて最初は僕は受け入れられなかったんですよ」と吉橋さん。型屋として、とても型破りな仕事だったらしいです。「製造工程で問題がでるので、それをクリアするためにシリコンを使ったりしています」とも。このニットの風合いを出すために、型屋がもっている技術やノウハウを総動員して、ようやく実現にこぎつけたのだと。吉橋さんは、根気があれば手彫りはできるものだ、と言うのですが、果たしてそうなのでしょうか。こんな繊細な表現を、型の段階で想定しながらなしえる人間が、たくさんいるとは思えません。

このニットの形、吉橋さんはいちど3Dプリンターでつくることもできるのではないか、と3Dスキャンしてもらったことがあるそうですが、データ量が膨大すぎて作れないと言われたそうです。デジタルではおいつけない、アナログの繊細さがそこにはあるようです。

一般的なカップの型であれば、だいたい7万円くらい。ニットの型は想定30万円くらいのコストがかかり、さらにバリエーションもつくりづらい。型ものなので、一点物ではありませんが、現代の民芸と言っていいのではないでしょうか。

Trace Faceは業界のタブーに挑戦した意欲作である

型業というのは、その深遠なる瀬戸物業界のなかで、下請けにあたります。問屋や窯元がいて、型を発注し受託する。型を作ったら、窯に渡して焼いてもらう。自分たちが、製品を企画することはなく、ある種それはタブー視されてきた行為でした。

祖父の1代目時代には、すでに瀬戸の窯業は方向転換をしていて、陶器でできた像などのいわゆる「ノベルティ」産業に関わっていました。2代目になって、食器を始めたり、自動車産業に関わったりしていたとのこと。トヨタの膝元でもあり、瀬戸の窯業は、自動車産業に支えられた時代があります。そうそう、プラグの絶縁体も窯業なんですよ。

かくして3代目の今、エムエムヨシハシは自らこうして企画をして、プロダクトを作る企業に生まれ変わっています。その上で、型屋としての機能も持っていることが、今回のTrace Faceにつながったのでしょう。

いま、瀬戸には少しずつ新しい風を求めて、若手が参入してきています。このRIDE HACKで取材した、瀬戸の体験型ワークショップ「CONERU」も同じく、街が変わりつつあるのです。

 

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アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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